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『月刊マクロビオティック』3月号おすすめ記事

『欧米人とはこんなに違った 日本人の「体質」』の著者
奥田昌子医師インタビュー
正しい知識を身につけ、日本人の体質を知る
巷には健康になるためにはどうしたらいいのか、様々な情報が溢れています。食べ物、運動方法など、どれを選択すればいいのか迷うことでしょう。その根拠となっているエビデンスも実に深く私たちの心理に入り込みます。そのエビデンスは果たして私たち日本人に合っているものなのでしょうか?
奥田昌子医師は内科医として治療をしながらも、健康診断で20万人以上を診てこられました。その経験と膨大なデータを収集してまとめたのが2016年12月に出版された『欧米人とはこんなに違った 日本人の「体質」』(講談社ブルーバックス)です。この本は、日本では一般的になっていることでも、中には日本人には適していないことが多くあることを紹介しています。健康法の根拠となっているエビデンスが欧米のデータであった場合、体質の違いからそれが日本人にも合うとは限らないからです。
このインタビュー記事を読めば、その理由が少しわかると思います。ぜひ、著書を読んでいただき、日本人の体質を知っていただきたいと思います。
病気の発症と体質
編集部:奥田先生、本日はようこそお越しいただきました。まずは著書「日本人の体質」を書いたきっかけを
お聞かせください。
奥田昌子医師(以下、奥田): 私はもともと科学=サイエンスが好きでした。体の仕組みはどうなっているのだろう? どうして病気になるのだろう? 生物とはどういうものなんだろう? そういったことにずっと興味がありました。そして医学部を卒業して体の仕組みについて研究をしました。
その後、治療をしていて思ったことがあります。それは患者さんの病気を治すということはもちろん大切なことですが、それ以上に大切なことは病気にならないようにする、つまり予防ということです。
「予防は治療に勝る」という言葉は500年以上前から言われていて、ここには再発予防というのも含まれます。こういうことを治療を通して考えてきました。その繋がりから健康診断や人間ドックなどの仕事もするようになりました。
編集部:先生のプロフィールにもありますが、健康診断で20万人以上診てこられたのですね。
奥田:はい、年間1万人の方を診ますので、20年ほどさせていただいています。毎年来られる方もいらっしゃいますので延べ人数で20万人ということになります。
健康診断や病院で治療中、よく質問があるのは「どういった健康法が良いのか?」というものです。「テレビでどこかの医師が良いと言っているけれども本当でしょうか?」といったような質問があります。そのテレビで言っている健康法の多くは欧米の健康法なのです。
例えば、糖質制限というのはアメリカから伝わってきたものですが、アメリカ人と日本人では体質が異なるのに、対応が同じということはありえません。病院に外国人の患者さんが来られたときは、薬の量を加減するとか、別の治療法にした方がよいことがあります。しかし、公に本になったものはありませんでした。
そんなとき、本にしませんかというお声がけをいただいたので、今の時点で明らかになっていることをまとめたのが、『欧米人とはこんなに違った 日本人の「体質」』という本なのです。
編集部:私も早速読ませていただきました。よく調べられていて分かりやすい言葉を使っています。内容もとても勉強になることが多く、これは多くの方に知ってもらいたいと関係者にプレゼントしました。皆さんとても参考になると喜んでいました。
奥田:喜んでもらえてとても嬉しいです。もともと私は医学書の翻訳をするなど文章を書くことが好きでした。そんなとき、ある出版エージェントとご縁ができ、最初の本『健康診断 その「B判定」は見逃すと怖い』(青春出版社)を出すことができました。
編集部: 先生の著書『日本人の「体質」』は体質のことが書かれていますが、伝えたいことはどんなことだったのでしょうか?
奥田:日本で広がっている健康法の多くは欧米のものです。それを実践しても同じ効果が表れるわけではありません。同じ人間であっても外見や言語が違うように、人種によって体質も異なります。そして、体質が違えば病気のなりやすさや発症の仕方も変わることがわかってきています。欧米人と日本人では体質が違うのですから、同じ健康法を取り入れても意味がなく、中には逆効果ということさえあるため、日本人には日本人に合う健康法があることを伝えたいのです。
マクロビオティックも昔からの伝統的な食事を勧めていて、とてもよいことですね。体質によって健康法は違います。日本は島国で、日本人は日本人しか見てこなかったために、人間はみな同じだと考えがちですが、世界各地域で体質が違うのです。
編集部:人間でも地域により体質が違いますが、薬についてはいかがでしょうか?
奥田:薬はまずラットなどの実験動物で段階的に臨床試験を繰り返します。それが実際に薬として認可されるのは3万分の1だそうです。期待していた効果が得られなかったり、思わぬ副作用が出たりすると開発が中止されるからです。同じ哺乳類でも結果が違い、同じ人間でも結果が違います。体というのはそれほど複雑なのです。
体質と遺伝
編集部:「体質」とはどのようなものでしょうか?
奥田:「体質」とは変えられるものと、変えられないものがあります。基本的に変えられないのは遺伝的要因によるものです。変えられるのは日々の食事など生活習慣の積み重ねによるものです。
それに、環境や風土などの影響が複雑に絡み合ってできていますが、生活習慣を変えると体質のかなりの部分を変えることができます。
編集部:当料理教室でも、体質は食事で変えることができるものもあると教えています。
奥田:これはアメリカの研究結果ですが、がんになった原因を調べたところ、全体の70%は食事を含めた生活習慣によるものだとわかりました。それほど生活習慣によって病気になる可能性が高いということです。これは人種に関係なく人間に共通することだと思います。逆に考えれば生活習慣を変えることで、がんの発症率をかなり下げることができると考えられます。
編集部:奥田先生は健康診断で多くの方を診てきたからこそ、生活習慣が健康状態にどのように表れてくるかを日々目の当たりにしていらっしゃいますね。
奥田:人間は育ってきた環境や風土、それまで体験してきたことで、それぞれ違う体質を持っています。極端な例でいうと一卵性双生児は同じ遺伝子を持っているはずですが、最初は外見が同じでも年齢を重ねていくうちに見た目が違ってきますし、必ず同じ病気になるとは限りません。
片方がたとえがんに罹ったとしても、もう一方が同じがんになる確率は10〜20%といわれています。それほど生活
習慣が大事だということなのです。
編集部:体質の違いについてさらにお聞きしたいのですが、同じ東アジア圏での中国人と日本人の体質の違いはあるのでしょうか?
奥田:まずは腸内細菌叢(腸内フローラ)が大きく異なります。皆さんよく知っている通り、腸内細菌には善玉菌、悪玉菌、日和見菌と呼ばれるものがありますよね。日和見菌はどちらかというと悪玉菌の影響を受けやすいものです。
本の中でも紹介していますが、日本、欧米、中国など12ヵ国750人の腸内環境を調べた結果、一番善玉菌が多かったのが日本人でした。中国人はその反対に善玉菌が少なく日和見菌が多いという結果で、中国人とアメリカ人は同じような腸内細菌叢だということがわかりました。これはちょっと驚きでしたね。だって中国人は日本人と遺伝子が似ていて食生活もアメリカよりは日本に近いはずでしょう。実際には日本人の次に腸内環境が良いのはフランスとスウェーデンでした。日本と食生活は全然違うのに不思議ですね。理由はまだわかっていませんが、環境要因もあるのかもしれません。
それから、中国人と日本人で違うのはカフェインに対する強さですね。カフェインはコーヒーやお茶などに含まれている成分で、日本人を含む東洋人は総じてカフェインに弱い遺伝子を持っています。しかし、中国人だけは別なのです。中国人がお茶の文化を継承してきたのは、カフェインに強い遺伝子のお陰といえます。
コーヒーの原産地を見ても、その地域に暮らす人種はカフェインに強い遺伝子を持っています。近年、海外のエナジードリンクという栄養ドリンクが流行っていますが、あれはカフェインが強いので日本人には刺激が強過ぎるのではないかと心配しています。
編集部:他の人種と比較してきましたが、日本人の遺伝子の特徴を教えてください。
栄養素と体質

奥田:先ほどお話したカフェインの他に、日本人は牛乳など乳製品が合わない人種です。乳糖を分解する酵素が遺伝的に弱いのです。
私が子どもの頃も給食には牛乳がありましたが、苦手な友だちがいました。世界的にみても日本人は乳製品が合わない人種といえます。普段は大丈夫だけど、体調がよくないときは飲めないという方もいますね。
では、カルシウムはどこから摂ればいいの? と心配されると思いますが、日本人を含む東洋人は骨がもともと強いのです。骨折する人も少ないですし、骨粗しょう症になる割合も少ない。これは遺伝的なことが一番の理由です。
それに加えて食生活だと思います。日本人は昔から魚や海藻を食べてきました。そして何より大豆製品を多く食べてきました。大豆の中にはカルシウムだけではなく、骨からのカルシウムの流出をおさえるイソフラボンという成分も含まれています。なんとアメリカの白人と比べると、日本人は年間700倍もの大豆製品を摂取しているのです。
編集部:700倍とは驚きの数字ですが、日本人は大豆製品が大好きで国民食ともいえます。
奥田:大豆だけではないですが、昔の人は今のように科学的なデータがなくても体に良い食べ物は何かを知っていて、それを継承してきたのだと思います。それが伝統食となり、私たち日本人を育んできたのでしょう。
カフェイン、乳製品に加えて日本人はアルコールに弱いといえます。アルコールを分解する酵素の力が遺伝的に弱いのです。中には、白人に比べると分解に16倍時間がかかる人さえいます。
アルコール摂取で危険なのは、アルコールはがんになる要因だということです。アルコールは弱い人でも次第に飲めるようになり、飲み続けると体に蓄積されます。そうすると大腸がんや肝臓がんだけではなく、すべてのがんを発症しやすくなります。
編集部:アルコールはすべてのがんの引き金になるということなのですね。
奥田:そうです。アルコールはすべてのがんの発症率を高めますし、血圧も上がります。東アジア圏の人は総じてアルコールに弱い人種です。対して白人やアフリカ人はアルコールに強い人種です。よく映画やTVドラマなどでアメリカ人がアルコール中毒に罹っているシーンがあります。あれは脳に影響が出ているからですが、彼らはアルコールを分解する肝臓の働きは強いのです。日本人が同じ飲み方をすると、アルコール中毒になる前に肝臓を壊してしまうでしょうね。
編集部:お酒の飲み方には十分注意が必要ですね。
奥田:人種によって色々な特徴がありますが、日本人は世界的にみて動脈硬化が少ない人種です。これは魚をよく食べてきたからだと思います。
背中の青い魚、たとえばアジ、イワシ、サバ、サンマなどに含まれる不飽和脂肪酸、DHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)は動脈硬化を防いでくれます。魚をよく食べる人種はアルツハイマー型認知症に罹る割合が少ないという研究発表もあります。
東アジア圏の人が認知症に罹る割合はオーストラリアに対しておよそ4分の1、西ヨーロッパ圏の3分の1というデータがあります。近年、アルツハイマー型認知症の方が増えて社会的にも大きな問題になっていますね。こういった分野こそ、日本が世界の研究をリードして欲しいと思います。
編集部:それは驚きですね。確かに日本は島国なので昔から魚を食べてきました。でも世界的に認知症の割合が少ないとは初めて知りました。
奥田:認知症になる原因として肉を多く食べることも指摘されています。実際に魚を多く食べる人は認知症の発症率が3分の1に、肉を多く食べる人は逆に2倍高くなるという発表もあります。
先ほど日本人は動脈硬化になりにくいとお話しましたが、これは魚をよく食べるからだけでなく、遺伝的に善玉コレステロールが多いこともあります。でもなぜか悪玉コレステロールと中性脂肪の数値はアメリカ人とほとんど同じです。
日本は食の欧米化が進んでいると言われていますが、それでも動脈硬化や認知症になる割合が少ないのは善玉コレステロールが多いからではないかと思います。これはよほど強い遺伝子を持っているからではないでしょうか。

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