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月刊「マクロビオティック」磯貝昌寛の正食医学

磯貝昌寛の正食医学

 

第107回:陰陽の思考法A

 

陰陽という思考法A

昔、中国北方の塞(とりで)に住んでいた老人(塞翁)の馬が、胡(こ)の国に逃げてしまいました。隣人たちは気の毒
に思い老人を慰めました。しかし、老人は「このことが幸福にならないとも限らない」と言って一向に気にもかけません。すると数ヵ月経ったある日、その馬が胡の駿馬(優れた馬)を連れて帰って来たのです。隣人たちは喜んでくれましたが、老人は「これは災いにならないとも限らない」と言うのです。そのうちこの老人の息子がその駿馬から落ちて足の骨を折ってしまいました。それを知った隣人たちが慰めにきてくれましたが、老人は平気で同じように「これは幸福のもとになるだろう」と言うのです。それから一年ほど経って、胡の国の大軍が襲ってきて戦争が始まり、村の青年たちはほとんど戦死してしまいましたが、塞翁の息子は足が悪かったために戦わずにすみ、親子とも無事だった
という話です。

「人間万事塞翁が馬」という故事の元になっている逸話です。

陰陽の学びが凝縮されている故事のひとつです。陰は陽になり、陽は陰になることを教えています。

人間にふりかかってくる運は何が幸で何が不幸か、視野を広げて大きく観ないとわかるものではありません。人の一代での幸不幸ではあまりに小さいのではないでしょうか。次の世代、その次の世代に幸を残すことが大幸というものだと思います。

動物食は極陽性食ですから、どうしても視野が狭く短くなり、世代を超えた大きな視点が欠落してしまうと思うのです。マクロビオティックが菜食をベースにしているのは、大きな視野を持つには、どうしても植物食でないと無理だからだと思うのです。

私たちは陰陽を学びにこの世に送られてきたと、歴史を見ても、現在の社会状況をみても、そう思わずにいられません。

陰陽はプラスとマイナス、光と影、温かさと冷たさ、大小、左右、上下、男女など、相反する要素を持ちながら、お互いに補い合っています。陰陽は相対的であり相補的でもありますから、これまた陰陽なのです。

絶対的な陰も絶対的な陽もありません。あらゆるものが陰陽両方をともに孕んでいます。その中で陽の要素がより多いものを陽とし、陰の要素がより多いものを陰としています。

人間一人ひとりの人生も社会の歴史も陰陽が波打って進んでいます。「禍福はあざなえる縄の如し」という諺もこの世は陰陽であることを表わしています。

今の日本は歴史の転換点にあると言われて久しく経ちます。経済に関しては未だに旧態依然とした経済構造の中で将来を論じている人があまりに多いと感じます。高度経済成長が達成された今は、日本経済は下山の時期にあります。モノの生産性を高めて増やす時代ではないのではないでしょうか。今はモノが溢れかえっています。ありすぎて何が本当に大事なものなのかわからない。断捨離が流行するのはモノがありすぎて、整理できない状況にあるからです。

これからの時代は生産性を高めるよりも、精神性を高めることです。モノの氾濫は精神を貶めるようにも見えます。しかし、下れば上り、上れば下るを繰り返すのが陰陽です。精神も下って底を打てば、あとは上っていくしかありません。

 

小さな目標を設定する

7年ぶりに自宅の畳を入れ替えました。我がの一階には畳部屋が一部屋しかないので、畳替えのその日は朝から畳部屋だけの大掃除をしたのです。

年の瀬の大掃除は家丸ごと全部、大掛かりな掃除になります。今回は八畳間の部屋だけの掃除です。家丸ごとの大掃除に比べたら、一室のみの掃除ですから、小掃除と言っていいのか、部分的大掃除と言っていいのか分かりませんが、部屋が天井からきれいになっただけでなく、いい気づきになったのです。

和道を開いてから毎月の食養合宿(半断食)をライフワークとしています。定期的に合宿に参加し、治療として体と心に向き合っている人も少なくありません。そんな人たちから気づかせてもらったことと、今回の掃除から気づいたことに多くの共通点がありました。それが「小さな目標を設定する」ことだったのです。

今回の畳部屋の掃除では、家の一部を短時間で掃除したのです。ほぼ半日、午前中のみで終わる掃除であったのですが、畳を新調したのも相まって、部屋が蘇るようにきれいになりました。ひと部屋をきれいにするという「小さな目標を設定」し、それに集中的に取り組むと、短い時間であってもそれなりにきれいになるものです。和道の合宿に参加されて、難病を克服される方々に共通するのも、これなのです。

膠原病のひとつである全身性エリテマトーデスという病気があります。症状が強く出るときは全身に紅斑が出てきてだるさが強くなり、時にかゆみや痛みを伴うという、圧倒的に女性に多い病気です。この病気を患った女性が、和道の合宿に定期的に参加されました。最初の頃の合宿では、合宿の日課をこなすことでいっぱいだったのですが、慣れるに従い余裕が出てきました。すると毎回の合宿で「小さな目標を設定」し、それを中心に取り組み始めました。

例えば、ある時には口の周りに紅斑が多かったので、その時は口周りの紅斑を消そうとして、まずは私にアドバイスを求めてきます。紅斑が口周りに多いということは、胃腸などの消化器系の臓器から排毒が活性化しているか、あるいは生殖器系の臓器から排毒が活性化しているのではないか、と望診では判断します。排毒が活性化しているのですから、それを後押ししてあげれば、体はより一歩きれいになっていきます。

彼女を見ていて感じたのですが、「小さな目標を設定」することで、雑念が少なくなるのです。病気の治療も家の掃除も、汚れを見たらあまりに多く、どこから手をつけていいのかわかりません。それを今回は、この辺りを集中的にきれいにしようと小さな目標を設定すると、雑念が消えて、掃除や治療に集中しやすくなるのです。

全身性エリテマトーデスの女性は毎回「小さな目標を設定」し、それらにコツコツ取り組みました。その結果、3年ほど時間はかかりましたが全身の紅斑が完全に消えました。

意識的に「小さな目標を設定」し、取り組む人もいる一方で、無意識にそれらをしている人も少なくないのです。関節リウマチを克服した方でも、意識的でなくてもその時に強い症状を消そうと取り組むうちに、結果的に全身の症状が良くなっていくのです。

断食や塩断ち、そして日々の食養からの病気の治療に取り組む人たちを私は数多く見ていますから、病気の治療においても、期間を限定して「小さな目標を設定」することの重要性を感じるのですが、畑違いのことでも、このことは重要なのではないかと想像できます。

仕事においても、受験勉強においても、「小さな目標を設定」してコツコツと努力を重ねていくことは、大きな壁を乗り越える鉄則ではないかと思います。それが、自然療法においても非常に大切なことだと感じるのです。

 

プロフィール

磯貝昌寛/いそがい まさひろ

1976年群馬県生まれ。15歳で桜沢如一「永遠の少年」「宇宙の秩序」を読み、陰陽の物差しで生きることを決意。大学在学中から大森英桜の助手を務め、石田英湾に師事。食養相談と食養講義に活躍。「マクロビオティック和道」主宰。

 

 

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