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月刊「マクロビオティック」磯貝昌寛の正食医学
第132回:食養指導録 自然と人間A
自然と人間
太陰太陽暦(月暦)や二十四節気、七十二候などの自然の営みをあらわす「コヨミ」からは、異常気象が続く現代であっても、その巡りに大きなズレがないことに驚かされます。大寒の時季にはちょうどその年の一番の寒さが来て、立春には春の気が立ち、暖かくなります。暑さ寒さも彼岸まで、といわれますが、春分の頃には暖かい日が多くなり、秋分の頃には涼しい日が多くなります。
では、何が異常気象かというと、春夏秋冬の巡りそのものが激しくなっているのが現代の特徴ではないでしょうか。冬の記録的な大雪、夏も記録的な猛暑はすでに、毎年あってもおかしくない状況です。
春夏秋冬は陰陽の巡りそのものです。その陰陽の巡りが激しさを増しているのです。極陰極陽といいますが、現代の季節はまさにそれです。
季節の陰陽が激しさを増しているのに呼応するように、私たちの体と心も、極陰極陽を抱えている人が増えているのを、食養指導を通して実感しています。過剰な動物食と砂糖や人工甘味料の多食。石油や鉱物由来の食品添加物も、私たちの体と心を極陰極陽に至らしめる大きな要因です。
自然が激動の時に人は、生きている環境が不安定なのですから、ジャンプするのをはばかるのが普通の人の心情です。大地が揺れている時、私たちは身をかがめて倒れないようにするものです。そう考えると私たちは人生の根っこを張るのが今にあった生き方ではないかと思うのです。実際に今は海外へ留学する若者が減っているといいます。海外志向が減少し、内向き志向になっているのです。
若い人は、無意識的に自然の流れに敏感です。社会が不安定な時には内向き志向になるのは自然なのです。自然な流れに敏感な若者を、私は日本の伝統的な生き方に目を向けるように導くことがとても大事なことだと思っています。伝統の分断した現代にあって、伝統を再興することがまずは最初かもしれません。
桜沢如一は日本の伝統的な食養(無双原理)を海外に持って行って、マクロビオティックとして世界に普及させました。そのマクロビオティックが逆輸入される形で現代の日本に広がってきているのですから、桜沢の先見の明は計り知れません。マクロビオティックは日本の伝統的な生き方と食べ方を陰陽という思考方法で実践することにあります。不安定な時代にこそマクロビオティックは、生きる指針になると思うのです。
一方で、多くの人が身をかがめて根を張る時代に入ってきていますから、人材不足になった外( 海外など)への進出を我先にと飛び出してみるのも面白い行動です。この世は陰陽ですから、両方の生き方ができます。これでなくてはならない、というものはありません。内であっても外であっても、力を出し切れるのであれば、どこであっても面白いものです。問題は力を出し切れる生き方ができるかどうか、そこにかかっているのです。
自然に合わせる・相手に合わせる
10年以上前ですが、ある雑誌にミシュランの三ツ星を受けたという銀座寿司店の店主さんのインタビュー記事が載っていました。80歳を超えた方でしたが、印象深い記事の内容でとても貴重なことを言われていたと記憶しています。そのひとつに「今の人は自分にあった仕事を探そうとするが、それは間違っている。仕事に自分を合わせるのが筋で、そうやって信頼や信用がつき、仕事が板についてくる」という言葉がありました。私はそれを読みながら本当のことだと感心したのです。
仕事も生命現象のひとつといえます。あらゆる生命現象では宇宙の秩序からはみだした行いは、どこかで何らかの障害を受けます。宇宙の秩序に則った生き方は順調に進むものです。
「仕事に自分を合わせるか、自分に仕事を合わせるか」は大きな違いです。仕事が自然と相対するものであればあるほど、仕事=自然に合わせたものでなければうまくいくはずがありません。気候の変動が激しい今、自然の中で生かされている私たちは、やはり自然に合わせて生きています。自然に合わせられない生物は淘汰されてきました。自然に合わせる、仕事に合わせる、相手に合わせる。見方を変えるとすばらしい言葉であり、行いです。自然に合わせてこそ楽しい人生を歩むことができます。生物や人間の歴史をみても明らかです。
自然に合わせる、仕事に合わせる、相手に合わせる、ということは協調性があるということです。陰陽でみると中庸の状態ということがいえます。しかし、相手に合わせることはできるけど、それが自分の中で苦痛でしょうがなく、嫌々合わせているということであれば、それは陰性過ぎるという見方もできます。ですから自主性を持ち合わせた協調性というものが中庸なのかと思うのです。自主性のない協調性は陰性過ぎると思うのです。一方で、協調性のない独断性、自己本位は陽性過多です。
進化生物学者の長谷川眞理子氏がおもしろい研究をされています。「コンピューターでシミュレーションすると、何かを得たら相手にもお返ししてという集団は双方がプラスになって、どんどん繁栄して一番最後まで残るんです。他者を騙したり、裏切って食い物にして自分の利益をどんどん増やしていくものは、一時は栄えますが、そのうち、そういうもの同士で騙し合って自滅しています」
長谷川氏の研究は、それぞれの人間の数百年の盛衰を短時間でシミュレーションしての結果ですが、もし数千年、数万年の単位でみれば相手である人間を自然に置き換えることもできると思います。「自然に合わせた生き方は人間も自然も繁栄できるが、自然を欺いたり、自然を食い物にして人間だけの利益をどんどん増やしていく文明は、一時は栄えますが、そのうち、そういう国同士で騙し合って自滅しています」と置き換えて解釈できます。今はまさに、
「自己本位の生き方」から「自然に合わせる生き方」への転換期にあると思います。
人間を含めて生物は本来、自然に合わせた生き方しかできないのです。どんなに文明が進んでも太陽や地球がなくては生きていくことができません。自然と真逆なことをして生きていこうにもそれは無理なことなのです。ちょっと無理なことをするだけで、私たちの体は悲鳴をあげるのです。世の中の病気という病気はすべて、自然の生活から離れてきているよ、という警告なのです。むしろ、病気によって私たちの体は自然に帰されているのです。
現代は社会そのものが自然から離れる方向に歩んでいました。その結果、病気は増えて、子どもたちが減り、生命力が弱まった社会が出てきてしまったのです。未だその歩みを止めない社会があるのですが、それでもその流れは弱まってきて、少しずつ自然に合わせた生き方を志す人たちが増えてきています。生命力を盛り返そうという流れも出てきつつあります。その流れを実際に肌身で感じることが重要です。スマホやパソコン、テレビの画面を通して情報収集するのはいいですが、実際に触れてみることです。実践の行動を通してしか私たちの生命力は高まっていかないのです。
プロフィール
磯貝昌寛/いそがい まさひろ
1976年群馬県生まれ。15歳で桜沢如一「永遠の少年」「宇宙の秩序」を読み、陰陽の物差しで生きることを決意。大学在学中から大森英桜の助手を務め、石田英湾に師事。食養相談と食養講義に活躍。「マクロビオティック和道」主宰。

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