【ジャーナルWEB公開記事】2025年夏号「海の向うから」第9回|台湾

No Meet Market : Taipei
第9回|台湾
渡辺 法樺
台湾のグリーン食革命
私は2000年から日本で暮らしていますが、ヨガの練習をしていて心身の変化を感じ、あるときから動物性食品が食べられなくなってしまったのです。それがきっかけで菜食の方法を探し始めたのですが、台湾の伝統的な素食には良い印象がなく、自然のままの食材を使ったベジタリアン料理を好んでいました。そうした探究の中で出会ったのが正食食養で、これによって私の食に対する概念は大きく変化し、食べ物との関係を新たに見つめ直すきっかけになったのでした。
初めはクシマクロビオティックスのシステムを学び、食養の基礎と料理法を身につけました。2018年には日本CI 協会で磯貝昌寛先生の下に学び、半断食や食事の調整を通じて身体を癒やす方法を学びました。
十数年に渡り日本と台湾を行き来して正食食養の基礎や手当法、料理教室を共有してきました。2020年には台湾の小学校と中学校向けに、正食食養をベースにした50種類の菜食レシピを提供し、学校で週に1回の「菜食の日」には健康的なメニューを多彩に楽しめるようにしました。
台湾といえば、賑やかな夜市や美味しい屋台料理、豊かな食文化というイメージがあると思います。しかし、よく観察するとこの島では「緑の食革命」ともいえる大きな変化が進行中なのです。伝統的な背景を持つ菜食が、新たな姿で台湾全土に広がっています。菜食レストランからオーガニックスーパー、さらには身心の調和を目指したライフスタイルまで、多角的に進化しながら拡大しています。
伝統的な菜食文化と新たな潮流
台湾の菜食文化は仏教や道教の影響を受け、寺院文化と深く結びついた歴史を持っています。しかし近年では、宗教的理由だけでなく、健康や環境保護、動物福祉などを動機に菜食を選ぶ人が増えています。
この変革は菜食レストランの発展によく表れています。伝統的な台湾式の素食だけでなく、アジア各国のエッセンスを取り入れたフュージョン料理や多国籍料理など多様な植物性の食を堪能できます。
その中でも私が企画・運営している「アンジャリ(※1)植物飲食ヨガコミュニティ」は、正食食養の理念を融合させた場であり、人々が自分自身と再びつながる手助けになればと願っています。
レストランの進化だけでなく、台湾の「NoMeat無肉市集」も菜食文化を推進する重要な存在です。台湾を代表する菜食マーケットの一つである無肉市集は新しいライフスタイルの普及拠点でもあります。定期的なイベントを通じてヴィーガンコミュニティをつなぎ、ヴィーガン食や環境保護の実践を広めています。
ここでは純植物性の焼き菓子、地元食材を使ったプラントベースの軽食、動物実験を行わないコスメ、天然由来の生活用品、廃棄物を減らすファッションアイテムなどが揃い、一切使い捨ての食器を使用しないことを徹底しています。健康面だけでなく、愛と平和、生命の尊厳を大切にし、食生活を通じて人々と地球の関係を変えようとしています。

アンジャリ植物飲食ヨガコミュニティで提供される料理
Beyond Vegan
この正食食養をより多くの人に体験してもらうため、2025年1月に「アンジャリ植物飲食ヨガコミュニティ」と「正食食養協会(※2)」の準備組織がコラボして「正食食養半断食合宿」を開催しました。30人以上の参加者が集まり好評を博しました。参加者は正食食養を体験するだけでなく、食の関係を別の視点からも見直し、健康と内なるバランスを高める方法を学んだのです。この成功体験は、今後も正食食養の普及を続けていく自信につながっています。
台湾ではこの食の智慧をさらに広めるため、「正食食養協会」の設立が進められています。講座やセミナー、コミュニティ活動を通じて、より多くの人に心身のバランスを意識した食のスタイルを知ってもらうことを目指しています。
協会の目標は、単に健康的な食事を推奨するだけではなく、食が私たちのライフスタイルを変え、個人の健康から環境保護、社会の調和、さらには世界平和に影響を与えるという考えを広めることです。自然の法則にかなった食スタイルで、個人の内的エネルギーはより安定し、それが周囲や社会全体に波及していくのです。
注目される台湾の菜食運動
台湾の菜食文化はアジアの中でも注目の的となっています。ここでは多様な選択肢があるだけでなく、柔軟性や多元性、そしてイノベーションが際立っているため、世界中のベジタリアンやヴィーガンたちの憧れの地にもなりつつあります。
日本や欧州などと比較しても、台湾の菜食市場は非常に速いペースで成長し、レストランの多様性や革新的なアイデアも多彩です。多くの菜食ブランドがチェーン展開や海外進出を視野に入れており、台湾の菜食文化を世界へ広める可能性が十分にあります。さらに正食食養の普及によって「ヴィーガンフレンドリー」から一歩進んだ「ホリスティック・フード(総合的健康食)」の領域へと踏み出しており、アジアの食文化革新の先駆けとなるでしょう。
食から始まる世界の変化
食事には私たちの健康や精神、さらには地球の未来までをも左右する力があります。台湾の伝統的な菜食文化は「素食」から進化した創造的なヴィーガン料理だけでなく、さらに「正食食養」という新しい段階に踏み込み「肉を食べない選択」から、より高次元の食哲学へと進化しているのです。
今後、「正食食養協会」の設立によってこの変革への参加者を増やし、台湾の人々はもちろん、海外からの旅行者や世界中のベジタリアンコミュニティもその恩恵を受けられるようになるでしょう。
台湾を訪れる機会があれば、この食体験をぜひお試しください。バランスの取れた一皿や自然のエネルギーを感じるご飯を口にすることで、単に舌を満たすだけでなく、自分自身との対話が始まるかもしれません。
一人ひとりの食の選択が世界をより良くしていく。その一歩を台湾は今、踏み出しています。

筆者の主宰する料理教室
1:Aañjal(i サンスクリット語)合掌の意。他に神の捧げ物・祝福・崇拝などを意味する古代インドで仏教に取り入れられた礼法。
※2:台湾で筆者によって設立準備中の協会
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著者プロフィール
渡辺 法樺/わたなべ のりか
台湾生まれ。ヨガの練習と自己探求を通して植物性の食事を選ぶようになり、2008年からマクロビオティックを学び始め、2015年より日本と台湾を行き来しながら、マクロビオティックの基本理念と料理を伝える。長年にわたり、自然な食事と心身のバランスを整えるライフスタイルの普及に注力。2024年にはヨガとマクロビオティックを組み合わせ、人々が内側から健康と気づきを高められるようサポート。2025年には「正食食養協会」の設立を計画し、志を同じくする仲間とともに自然に根ざした食と養生の智慧を広めている。
