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【ジャーナルWEB公開記事】2026年春号「提言」井上 敬康

マクロビオティックジャーナル2026年春号(1038)

提言 井上 敬康

日本文化を通じて自己を探る

私は、「生きるという事は何なのだろうか?」というテーマを抱え、大学内に「人間問題研究会」という勉強会を開いていました。時代は1970年、随分と昔のこと(50年前)になってしまいました。当時はベトナム反戦や反安保といった学生運動が盛んな時代で、私もその影響を受けマルクス主義こそがこれからの時代をリードする思想だと思い、勉強会では初期マルクス哲学に生きることの意味を求めていたのです。

しかし、その思想を支柱とする当時の学生運動は内輪もめに終始して、結果的に学生の犠牲者(死人)が出るような状態になっていきました。そんな矛盾を見る中でマルクス主義の限界をつくづく感じとり、考えた末に出した結論は「自分は西洋の学問(マルクス主義等)」は学んできたが「日本や東洋の文化思想」は何一つ知らないという反省でした。学校で学ぶ国語や社会科などでは日本の本当のことは学べないと思いました。それ以降は「日本的なるもの東洋的なるもの」の文化探検が私の課題になったのです。日本文化を通じて自己を探ろうと思ったと言っていいでしょう。

私の生まれたのは昭和22年で、日本が敗戦になってから2年後で、当時は占領軍(GHQ =連合軍最高司令官総司令部)が日本を支配していました。その占領政策で日本文化、わけても日本人の根幹をなす文化を徹底的に壊す政策がとられていたのです。しかし、もちろん子供である私はそんなことは知らずに映画や当時出回り始めたテレビで西部劇や野球やジャズなどに親しんで成長していったのです。

しかしそれらがすべて計算された占領政策であったことを知ったのは戦後史を学び始めてからのことでした。江藤淳氏の『閉ざされた言語空間 占領軍の検閲と戦後日本』等の文献の中で初めて知っていったのです。それ以降GHQが消した日本文化を意識的に学習していきました。とりわけ占領政策で第一番に消された「武道(剣道・柔道・合気道・空手等)」は、これは第一に身につけようと思い、新宿区若松町にある合気道本部道場に通うことになります。10年は続ける決意の元に合気道を始めてから35年は稽古させてもらいました。

仏教・ヨガ・マクロビオティック・KJ 法

また、西日暮里にある禅宗のお寺の「全生庵」で開かれていた清風仏教講座では大森曹玄老師や金岡秀友先生、紀野一義先生等、当時の一流の仏教者の方々の教えを受けることが出来ました。その流れの中で沖ヨガの創始者の沖正弘先生のお話を聞く機会を得て人生を探求することを「求道(くどう)」と呼ぶのだと初めて知ったのです。それが『求道』(2022年/幻冬舎)という本を書くきっかけになりました。以降沖正弘先生のヨガの縁で沖思想に大きな影響を与えた桜沢如一先生のことを知り、マクロビオティック クッキングスクールリマにも通うことになります。しかし仕事の関係で初級(現ベーシックⅠ)までで断念。後年、大森一慧先生の荻窪のクッキングスクールを知り、5年通う中で師範科を終了出来ました。それと前後して神道家でクンダリーニヨガを教えられていた本物の覚者と呼べる本山博先生に出会うなどを通じて「人間とは何か」を問い続けることになります。

また、これらの探求の中で情報を整理あるいは思考を深める方法が必要と思い、文化人類学者である川喜田二郎先生の学問研究の方法、日本的発想法ともいえる「KJ 法」に出会うことになります。これからの情報社会に絶対必要な方法論であるとの思いが募り、川喜田研究所での正式な訓練を受け、公認のKJ 法新宿塾という形でKJ 法の普及活動をさせてもらいました。現在は、その延長というべき勉強会(アストック・サロン)を優れた友人達と共に開催して10数年の月日が過ぎております。

『求道』(2022年/幻冬舎)

明治時代から続いた暗示から目覚める

人生は早いものです。本当に早くあっという間に向こうの世界に行かねばならない状況になります。ですから若いうちから物事の本質的なこと根本的なことを学んでいくことが実に重要になると思うのです。「人生とは何か」それを考えるその学びの基礎になるのが自分の生まれた土地や国の文化という基本ポジション(つまりご縁ですね)かと思います。世界に学ぶことも大切ですが、まずは自分の足元の文化や思想を学び身につけていくことが一番大切であり一番重要だと思うのです。

戦後は米国の占領政策もあり、日本の社会は「日本否定のオンパレード」でした。知識人程に日本文化を否定していくという逆転の図式・流行が続いてきました。しかしこれは実は明治新政府の頃から続いた一つの流れかも知れません。当時は欧米諸国の世界的な植民地化という外圧から早急に西洋文化を取り入れる必要があり、やむを得ない事情があったと思います。しかしながら、日本人はいい加減この明治時代から続いた「暗示」から目覚めなければならないでしょう。

石塚左玄や桜沢如一先生は明治新政府の日本文化否定の流れに反して日本の伝統的な食や民間に伝わる知恵を大切にして時代の中でそれらを残そうと努力されたと思います。ですからマクロビオティックの思想の背後には足元の文化を大切にするという思想が根本的に流れているように思うのです。

先祖や父祖の努力・涙と汗の歴史にきちんと向き合い、それに対して敬意を払う事が出来るようになったときに、自分の生きる意味が見い出せてくる自己存在の有難さを確認出来てくるようになると思います。それこそがしっかりとした国を作り人々が安心して生きていける元であると考えています。

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著者プロフィール

井上 敬康/いのうえ たかやす
昭和22年(1947)東京生まれ。軍医だった父親に厳しく育てられる。父親への反発から武蔵野美術大学に入学するも、反戦運動に熱中して大学を中退。その後、思うところがあり「求道」をテーマにして武道・神道・食養・ヨガを学ぶ。文化人類学者の川喜田二郎先生のKJ 法の存在を知り、川喜田研究所で正規の訓練を受け公認インストラクター(KJ法新宿塾)としてKJ法の普及に専念する。その後「総合研修所アストック」を立ち上げ、日本文化をテーマとしたセミナーを開催する。特に武道の再評価に努める。合気道五段・全剣連居合道二段・古流居合(田宮流)三段、「マクロビオティック一慧のクッキング」師範科修了。2022年に(株)幻冬舎より『求道』を出版、2025年に文庫版化される。

井上 敬康

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