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【ジャーナルWEB公開記事】2025年冬号 「プロフェッショナル メニュー」第11回|お野菜懐石&Organic Cafe manaya

お野菜懐石&Organic Cafe manaya

※本記事の内容は2025年10月11日現在のものです。

第11回|お野菜懐石&Organic Cafe manaya

取材・文/篠崎 由貴子

今回は、和食の板前として研鑽を積んだ後、長野県安曇野市で玄米菜食をメインにした料理店「manaya(まなや)」を始めた太田勉さんにお話をお聞きした。マクロビオティックとの出会いは人生の転機となり、尽きることのない創造力をもたらしてくれたと話す太田さんのこれまでと、描く未来とはどのようなものなのだろうか。

和食の道を深める

食に関わる仕事に就きたいと考えた太田さんは、調理師学校を卒業後、地元(神奈川県)のフランス料理店に就職し、3年ほど務めたそうだ。先輩方の指導は大変厳しく、掃除や鍋磨きで1日が終わる日々を過ごしていたという。

「正直なところ、聞いてはいたけどここまでか…と思いましたね。1年経っても2年経ってもやり甲斐を感じることができず、フラストレーションが溜まる一方でした。理想と現実との解離から、自分には向いていないのではないか?という思い悩むようになり、退職して放浪の旅に出ることにしたんです。今思えば何もかもが若かったですね。たまたま宿泊した長野県の旅館で雑用係を募集していると聞き、住み込みで働かせてもらうことになったのですが、ある日女将さんから『板前さんを迎え入れることになったから和食を学んでみては?』と言われて…。最初は戸惑いましたが申し出を断ることができず、2年ほど仕込みや調理のイロハを教わりました。その後、兄貴分にあたる人を紹介してもらうことになり、別の旅館で働き始めてから少しずつ和食に魅力を感じるようになったんです。当時の板前業界はこうした繋がりでスキルアップしていくことが多かったですね。勤務先のコンセプトに合った料理を作れるようになって初めて一人前として認められる感じです。政財界の人たちが集うゴルフ場で働いたときは、敷地内にある料亭で和・洋・中の著名な料理人が様々な献立を振る舞っていたのでとても勉強になりました」

太田さんがマクロビオティックに出会ったのは今から20年ほど前のこと。とある書店で「食で体を整える」といった内容の書籍を読み、自身の食生活を見直したいと思うようになったそうだ。

「色々な出来事が重なって、行き詰まっていた頃でした。何かのきっかけになれば…とマクロビオティック クッキングスクール リマに通い、上級(現アドバンスⅠ)コースまで受講したのですが、仕事が忙しくて修了証授与式だけ出席できなかったように記憶しています。様々な学びの中で強く感じたのは『マクロビオティックと和食には通じるものがある』ということでした。食材の特性を最大限に活かした調理法はもちろんのこと、一物全体・身土不二といった考えは私の目指すところでもあったので、すべてが腑に落ちましたね。陰陽調和も然りです。

マクロビオティックを取り入れたことで、様々な変化がありました。花粉に敏感だったのですが食を整えたところくしゃみ・鼻水などの症状が収まり、何より体が軽くなりました。余計なものを摂らなくなったことから味覚も研ぎ澄まされていったように思います。

ある旅館でマクロビオティックのコース料理を考案・提供したところ、たくさんのお客様に喜んでいただいたことがあります。板前として、また、マクロビオティックを実践する者としてやり甲斐を感じましたね。その一方、同僚たちの中にはこれらに肯定的でない人がいたことも事実です。この頃から徐々に働きづらさを感じるようになり『自然豊かな土地で育った米や野菜をメインにした店を持ちたい』という想いが募るようになりました」

食材の味を活かす調理法

30年ほど様々な飲食店で腕をふるってきた太田さんが長野県松本市に「ゆるカフェ日和 manaya」をオープンしたのは11年前のこと。5年後には玄米菜食を実践する傍ら、松を使った料理の普及活動に尽力する村松一男さん・美穂さんご夫妻とのご縁から安曇野市へ移転し、現在の店名に変更したそうだ。

「お二人が営んでいたお店を内装そのままに引き継ぎました。古民家ならではの落ち着いた雰囲気は、今まで以上に私の創造力を豊かなものにしてくれていると感じます。

提供している料理の中で特におすすめなのは『お野菜懐石コース』ですね。旬の食材を和食とマクロビオティックの考えに沿った調理法で仕上げているのでどれもが心と体に優しい味わいです」

お野菜懐石&Organic Cafe manaya

玄米ご飯と共に提供されるおかずの一例

前菜、お椀、向付、焼き物、揚げ物、煮物、玄米ご飯、味噌汁、ミニデザート、お茶の全9品は季節や時期によって内容が変わる。太田さんのインスピレーションから生まれた一品一品に虜になるお客様も多いようだ。

素揚げした蕪には酒煎りした玉ねぎとブロッコリーの芯をミキサーにかけ、ほんの少しの塩を加えたピューレを乗せました。春巻きの具にはおからと重ね煮した野菜を使っています。こちらも味つけは塩だけですね。汁物には出汁の出る根菜を使うことが多いでしょうか。味噌は食材や季節によって3年ほど寝かせた米味噌がベースですね」

稲穂やサツマイモを薄切りにして素揚げしたイチョウの葉などのあしらいからも、秋の終わり・冬の訪れを感じて欲しいという太田さんの細かやな心配りが感じられる。

「メインはあくまでお米」と語る太田さんは、玄米と野菜の持つ味わいを最大限に引き立たせるため、醤油や味噌、みりん、梅干しといった基本の調味料のほとんどを自ら仕込んでいるという。店の軒先に実る渋柿で作った柿酢はまろやかな酸味と柿の豊潤な香りが特徴で、食材の旨みを引き立てる名脇役。醤油や味噌に使われる大豆は無農薬で育てられた地元産を使用しているそうだ。寒い時期になると近隣住民が太田さんのお店に集い、和気あいあいとした雰囲気の中で一緒に仕込み作業をするという話からも、地域の人たちとの交流を大切にしている様子が伺えた。

四季を味わう一品料理

太田さんの巧みの技は、前菜やデザートにも存分に発揮されている。秋から冬にかけては自然豊かな安曇野の地で育った芋や柿に一手間加えた料理が好評のようだ。

「その時期にしか味わえない食材を厳選して提供しています。春は掘り立ての筍の煮物や山菜の冷奴、夏はナスの翡翠煮や無花果の揚げ出し、秋は落花生の葛寄せや白菜の摺すりなが流しといった感じですね。

お野菜懐石&Organic Cafe manaya

柿のグラタン

柿のグラタンはすり下ろした長芋を豆乳で伸ばし、火を加えてから塩で味つけしたソースをかけてオーブンで焼き、ほうれん草をのせて柚子の皮を散らしています。柿の甘みが引き立つようソースの塩加減を調整することが多いですね。過度な味つけをせず、食材の持つ旨みを存分に感じられる調理が和食の基本なので、焼き方、煮方、蒸し方、揚げ方などを工夫し、コースを通して様々な食感を感じられるように仕上げることが大切だと考えています。

柿とあけびのデザートは味つけをせずお出ししています。軽く焼いた柿の香ばしさと、ピュレにしたあけびの上品な甘さだけで立派な一品になるんですよ。お住まいの地域であけびが手に入ったときは、ご家庭でも作ってみて欲しいですね。驚くほど美味しいですよ!」

お野菜懐石&Organic Cafe manaya

焼き柿とあけび餡掛けのデザート

原点に立ち返る

manayaを訪れたお客様は、美しく盛り付けられた料理の数々を古民家ならではの心休まる空間で味わうひと時を存分に堪能しているようだ。出迎えや見送り、料理の説明をする姿を目にし、太田さんのもてなしの精神に魅了されて通い続ける人も多いのではないかと感じた。

「7:3の割り合いで女性が多く、地元のおばあちゃんたちのリピート率が高いですね。料理を囲みながら皆でわちゃわちゃ話をしている様子を見ていると、私まで笑顔になります。その他では、やはり観光客の人たちが多いでしょうか。完全予約制で営業しているのですが、時間に余裕があるときは飛び込みのお客様もお受けすることがあります。

お野菜懐石&Organic Cafe manaya

古民家ならではの「陰翳」も一興

SNSを活用した集客はほぼしていないのですが、海外から訪ねて来られる人もいらっしゃいますよ。英語のメニューがないのでそのたび四苦八苦しています(笑)。文化の違いもあってか、ほとんどの人が『三角食べ(ご飯・おかず・汁物などを順番に少しずつ食べる)』をすることができないようです。口中調味(噛むことで生まれる味の変化を口の中で楽しむ食べ方)は和食の基本なので、日本の文化に触れるという意味でもチャレンジしてもらいたいですね」

お客様の中には「食材の味が十二分に感じられた。玄米菜食は医食同源に通じるものがある」という感想を寄せる人もいるようだ。目で見て、味わって感じたことを大切にして欲しいと願う太田さんは、年末の恒例行事として野菜だけで作るお節料理教室を開催。毎年定員を超える申し込みがあり、地域の人たちの交流の場にもなっているという。

「小学生からお年を召した人まで、どなたでも大歓迎です。食材の調達や下準備など色々と大変なのですが、皆さんとても熱心なので私自身の刺激にもなっています。一年を振り返り、自分の料理をたくさんのお客様に味わっていただける有難さを再認識する機会でもありますね。

お野菜懐石&Organic Cafe manaya

お節料理

玄米菜食を始めて20年近く経って感じるのは、今こそ日本で生まれ育った私たちの食事の『原点』に立ち返ることが必要なのではないかということです。マクロビオティックを取り入れてもらうためには…と様々な趣向を凝らすより、一汁三菜をよく噛んでいただき、食材本来の味を感じることが何より大切なのではないでしょうか。

和食には『探し味』という言葉があります。口の中で食材が混ざり合い、噛むことによって生まれる味を自分で見つけるといった意味なのですが、これこそマクロビオティックだと思いませんか?これらを意識することで感性や直感力が磨かれていくのだと思っています。

ここ数年、物価上昇が加速していますよね。玄米に至っては倍以上の仕入れ値になっていますから『どうしたものか…』というのが正直なところです。とはいえ、ここ安曇野にも私たち消費者の健康を願って無農薬のお米や野菜を真摯に作り続けている農家さんがたくさんいて、マクロビオティックの考えに共感している人も多いんですよ。生産者とマクロビオティックの普及活動に尽力する人たちが繋がることで、新しい世界が広がるかもしれませんね。そのためにも私にできることは何かを探究していきたいと思っています。

※本記事の内容は2025年10月11日現在のものです。

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INFOMATION

住所:長野県安曇野市堀金烏川1528-1 TEL:0263-31-0901
営業時間:Lunch & Cafe 11:30〜16:00( 15:30 L.O)
Dinner 17:00〜21:00(要予約)
定休日:月・ 火・水
https://manayakaiseki.wixsite.com/manaya-azumino
お野菜懐石&Organic Cafe manaya

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