【ジャーナルWEB公開記事】2025年夏号「提言」中村 陽子

提言 中村 陽子
広がるオーガニック給食
2025年3月26日付けの日本農業新聞によると、有機農産物を活用する市町村の数が2023年度に過去最多となり前年に比べ4割増えたという記事が掲載されていました。また、3月30日付けの東京新聞には「有機農業に向けて動き始めたJAと自治体」が特集されていました。これらの記事は有機農業を推進するために、いかにオーガニック給食が期待されているかを伝えています。
数年前まで有機農業という言葉は、農林水産省でもタブー視されていました。「オーガニック或いは有機という言葉」は行政では封印されてきた歴史がありますが、この言葉を使わずとも各地の自治体が次々と子どものことを考えた給食を始めています。いずれも保育園・幼稚園の園長先生が、子どもの低体温・アトピー・発達障害など、子どもたちのSOSに気付いたことがきっかけとなりました。
給食を変える動きには、1972年出版『複合汚染』(有吉佐和子著/新潮社)が警告した、農薬や添加物の危険性の排除に重点を置く運動と、戦後の欧米化した食生活の問題点に気付き伝統和食への切り替えを促す運動があります。後者は出来るだけ無農薬・無添加の食材を使用していますが、農薬や慣行農業を敢えて批判することなく成功している事例が見受けられます。
保育園、幼稚園は公立・私立に関わらずトップの考え方次第で変革が進んできましたが、未だに小学校の給食を変えているところはほとんどありません。それは保育園・幼稚園は厚生労働省、小学校以上は文部科学省管轄のため、法律が違うことが理由のようです。
そんな厳しい状況の中で、新宿区ではオーガニック給食を始めましたが、世間の逆風により8年ほどでなくなってしまいました。一方、武蔵野市では「素性のわかる安全給食」を始めましたが、労働争議や民間委託などの幾多の困難を乗り越えて、財団を設立することで存続しています。
私はこの理由の一つとして、「有機・オーガニック」という言葉を敢えて使わなかったことで、逆風をかわすことができたのではないかと考えています。
オーガニック給食普及の潮流
① 食の安全が脅かされている現状認識が進み、関連書籍の出版や、オーガニック和食給食に関する映画が全国で盛んに上映されている。
② 特別支援学級の児童数の増加や、食物アレルギーの子どもの数が発表され広く知られるようになった。
③ 2021年農水省が「みどりの食料システム戦略」で有機農業面積を2050年までに25%とする目標と、給食を有機農産物の出口にする方針を打ち出した。
④ 2022年「全国オーガニック給食フォーラム」が開催され、4,000名の参加者と37名の首長さんがオーガニック給食宣言をし、これを受けて各自治体が取り組み始めた。
⑤ 2023年「全国オーガニック給食協議会」が組織され、自治体・生活協同組合・JA、また、多くの市民団体が加盟した。
⑥ 同年、超党派で「オーガニック給食を全国に実現する議員連盟」ができ、与党側の共同代表は元農林水産大臣が務めている。
⑦ 2024年「第2回全国オーガニック給食フォーラム」が開催されJAの役割が明らかにされた。
⑧ 学校給食法第9条第1項で食材の選定には「有害なものまたはその疑いのあるものは避けること」また「有害もしくは不必要な着色料、保存料、漂白剤、発色剤その他食品添加物が添加された食品については使用しないこと」と定められている。
以上は全て2021年から2024年にかけて集中しています。気候変動の解決策の1つとしてなのか、戦争の影響からくる化学肥料の高騰からなのか、失われた生態系を回復するためなのか、子どもたちの食物アレルギーや発達障害急上昇の危機感からなのか、世界的な動きであることは間違いありません。
オーガニック給食の定義
何をもってオーガニック給食というのでしょうか?実はそれも自治体ごとに違い、はっきりとした定義は存在しません。すべての有機認証の費用を国が負担し、有機農産物を100%使用している例もありますが、日本の場合、地産地消が推奨されているので、地元の有機農業を増やしていく必要があります。
そこで、オーガニック給食を実行しようと決めた自治体は、地元の農家から有志を募り、有機農業技術の研修をし、給食で適正価格で買い上げる約束をして給食用の安全な農産物を増やしています。「農薬不使用」というジャンルの農産物を給食用に買上げることで有機農業の推進に寄与しています。
また、顔の見える関係として、学校と農家が2者間で契約することで、無農薬に近いものが提供される傾向にあります。この場合、有機認証を取得する必要はなく「給食の野菜畑」の立て看板と共に、参加型認証に近い地元の方たちの愛情とまなざしによって育てられています。
食生活の変遷
現在の給食メニューの食材を、全て有機食材に変えたとしても、子どもの成長にとって最適な食事にはなりません。戦後、私たちの食事には、小麦粉、油、砂糖、乳製品が入り込んできて、小麦の消費量はお米を超えてしまいました。2022年の日本学校保健会の調査によると、食べて60分以内にアレルギー反応が出て医療機関を受診した児童生徒数は52万人。9年前の調査より12万人増加しています。
アレルギーの順番は1位が鶏卵、2位が乳製品、3位が小麦です。これらは戦前の日本人はほとんど摂取していなかったもので、いかに日本人に合わない食を採用し続けてきたかということを意味しています。給食の内容を伝統和食に変えた保育園・幼稚園の園長さんたちは、40年以上前からこれらの問題を解決していたのです。
これからの運動では戦後採用された栄養学の見直しを、同時に進めていく必要があると思います。給食は自治体の裁量で決めることができるので、自治体の担当者がこの見直しに参加していただけるような展開を考えています。給食は最良の食育の教材として、食事と農業の在り方を子どもたちに伝えることが大切です。この原動力は母の愛でしょうか。子どもの健康を最優先にする大人社会が望まれます。
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著者プロフィール
中村 陽子/なかむら ようこ
東京都杉並区出身。東京女子大学卒、武蔵野市在住。1995年「登校拒否の子どもたちの進路を考える会、事務局長、1996年「海のミネラル研究会」代表、2001年NPO法人メダカのがっこう理事長、2003年(財)オイスカ評議員、日本の種子を守る会常任幹事、OKシードプロジェクト共同代表。
