【ジャーナルWEB公開記事】2024年冬号「マクロビオティックの農」
第7回|改めて食と農の関係性を模索する 元田 覚美
フラワリッシュ流就農術
「フラワリッシュ」は、奈良市鳥見町のカフェにてランチ・弁当販売及び、マクロビオティック関連商品の販売、料理教室の開催、各種講演会等の活動を行っています。
2009年より「環境勉強会」を毎月開催し、「One peaceful world」などで活躍された故・大場淳二先生、正食クッキングスクールの岡田昭子先生、日本CI 協会元会長の故・勝又靖彦先生をお招きし、連続で講演会を開催させていただきました。また、年1回、各方面の先生をお招きして、講演会を行い、食の大切さについて学んでまいりました。そのような活動の中で、「食と健康財団」理事の道見 重信先生より、日本の文化とお米のお話をお聞きし、お米の大切さを痛感し、農を始めることになりました。
それと同時に、「引きこもりの人が農作業をして、そこで採れたものを食べているうちに社会復帰する」というお話を知ったこともきっかけとなり、2013年からスタッフ所有の土地で畑をスタートさせることになりました。
翌年からは知り合いの方の土地500坪をお借りすることができ、土地を耕して、大豆を植えました。種は、兵庫県三木市で先祖代々の種を受け継いで育てている方から分けてもらいました。大豆を植えることにしたのは、岡田昭子先生から、日本人はお米と大豆で生きてきたことと、日本で採れる大豆は、輸入されたものとは違うというお話をお聞きしたからです。その年には大豆が23kg 採れ、87kg の味噌を作ることができました。
天理農園での挑戦
2017年からは、奈良県天理市で畑1反と稲作1反を始めることになりました。知人の方が、田んぼを何枚も所有しているのですが、息子さんとお母さんの二人なので管理できず、自分たちが食べる分だけ作っていました。それ以外は自己保全管理の田圃(※1)になっていて、その土地をお借りすることになったのです。山手に近く、自然が広がるステキな場所です。
天理農園では自然と調和した農を行おうということで、無農薬、無化学肥料を基本として栽培を行っています。自然と対峙するのではなく、植物の力を引き出し、土の微生物に助けてもらう農を心がけています。具体的には以下の通りです。
- 畝を高くし、排水溝を作り、水はけの良い畝を作る
- 最初は植物性堆肥(竹炭・籾殻燻炭・糠・油粕・EM 菌ボカシ)を畝に投入し、さらに干し草を置き、土を乗せ、ビニールマルチでカバーし、約2か月で糸状菌を発生させて野菜の種を蒔く、または苗を植える
- その後3~4年は無肥料で継続栽培、栽培の都度追加で干し草を置く(草マルチ)、蠣殻石灰を必要に応じて使用
- 家庭用生ごみをEM菌ボカシと混ぜて発酵させ、堆肥として活用する
- 雑草はなるべく抜かず、根元で刈り取り、草マルチとして使う
- F1種ではなく、在来種の種を使用し、成長した野菜の一部を翌年の種として採種、保存する(種の図書館)
土を整えることの大切さ
苦労したのは、お借りした田圃は親子二人で管理しきれず、除草剤を撒いていたせいで土地が痩せており、作物を育てるには大量の植物と有機発酵堆肥と優良微生物を入れる必要があったことです。「菌ちゃん農法(※2)」の吉田先生をお呼びしたり、自然農を行っている方のところへ勉強に行ったりしつつ、この土地と気候に合った方法を模索し、土を整えてきました。畑では大根、小松菜、玉ねぎ、南瓜、里芋、蕪、ごぼう、さつま芋、トマト、きゅうり、へちま、苺など様々な種類の野菜を育てています。
2020年から作付面積を2.7反に増やした田圃では、苗は購入していますが(籾消毒済)、栽培期間中は農薬、除草剤を使用せず、お米を作っています。竹を切ってきて、収穫後の田んぼで竹炭を作ります。その炭と「えひめAI」(ヨーグルト・ドライイースト・納豆・砂糖を合わせる)と糠を田んぼに入れます。そうすることで、土壌の微生物を活性化させ、土地の循環サイクルを促進し、良質な土壌に改善し、植物の成長を促進させる効果があるそうです。
炭は水路入口に置き、田んぼ全体にも撒きます。炭を入れることで水が澄み、カブトエビが多く発生し、栽培中の雑草も中央付近に少し生えるくらいです。通常はジャンボタニシを害虫とみなし、椿油粕を撒いて絶滅させますが、田植え直後は浅水にして若い稲苗を食べないよう動きを止め、稲苗が定着し、大きく硬く育ったところで深水にし、若い雑草を食べてもらいます。また米ぬかを撒くことで日光を遮断し、雑草の発芽・発育を抑えます。7月頃には中干を経て深水にし、「えひめAI」を入れます。この方法で根が深く張り、強い稲になり、全国的にウンカの被害が拡大した年にも全く殺虫剤を使っていないのにも関わらず、被害はありませんでした。食味値を測定した結果、83でおいしいお米を作ることができました。参考までにスーパー品は約60~65(標準値)、70以上が美味しいレベルだそうです。施肥しないので収量は少ないですが、その分生命力の高いお米(メタボリックなお米ではない)なのではないかと感じています。生命力の高い食べ物を食べれば元氣が出ます。また微生物が住む土に触れて、植物と対話すれば、幸福度が上がります。
自然との一体感が心の安心に繋がります
田んぼに入って農業用重機のポスター撮影をしておられる写真家が来られた時、「色々な田んぼの土の上に立ちましたが、ここの土は全然違いますね」と褒めてくださいました。都市に住む人には特に、土のエネルギーを感じられる場所が必要なのではないかと思います。身土不二の意味の深さを感じます。
今後天理農園では、食と農を身近に感じてもらえるような場所にしていきたいと思っています。予定としては貸農園の開設、農作業のお手伝いを募ってそこで採れたものを料理して食べるといったコミュニティ作りをしたいと思っています。他にも良いアイデアがありましたらご意見いただけますとありがたいです。
※1:自己保全管理:耕作可能な状態で管理され、作付けしていない状態の農地
※2:菌ちゃん農法:有機農法家 吉田俊道氏が提唱する農薬や化学肥料などの人工的な農業資材を
使わずに、病害虫を回避し生産する農法
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著者プロフィール
元田 覚/美もとだ さとみ
大場正食料理教室にてクシマクロビオティックインストラクターを取得。株式会社フラワリッシュを設立、カフェや料理教室の運営、講演会開催などマクロビオティックの普及活動を行う。現在は料理教室の講師活動で自身の体験を伝えている。一男一女の子育て中。同志社大学卒。
https://www.flowerish.co.jp/