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【ジャーナルWEB公開記事】2024年春号 「プロフェッショナル メニュー」第4回|モミノキハウス

モミノキハウス

※本記事の内容は2023年12月18日現在のものです。

第4回|モミノキハウス

取材・文/篠崎 由貴子

今回は、東京・渋谷区神宮前で「MOMINOKI HOUSE」 を経営する山田英知郎シェフにお話を聞いた。シェフの料理と人柄に惹かれ、長きにわたり通い続けるお客様の中には海外から訪ねて来るファンも多い。1976年にオープン以来、半世紀近くもの間お客様に愛されるお店を続けてきたシェフの想い、目指すものとはどのような世界だろうか。

食への関心からプロの世界へ

「子どもの頃は和食の料理人だった父の料理を食べて育ちました。もともと『食』への探究心が強かったこともあって、港区のホテルでフランス料理を学んだ後、世界の料理を知る旅に出たのです。マクロビオティックという言葉を知ったのは、アメリカ滞在中でした。

その後ヨーロッパへ渡り、様々な国に足を運んだのですが、イギリスにたどり着いたときにとうとうお金がなくなってしまって(笑)。ロンドンのレストランで働きながらしばらく過ごし、数年後に日本に帰国しました。

食文化の違いに驚くことも楽しみの一つでしたし、何もかもが新鮮で興味をそそられるものばかりでしたね。私にとってかけがえのない思い出であり財産です。」

フレンチシェフの経験や訪れた国々の料理はマクロビオティックとはかけ離れているように思うのだが、何故、玄米菜食を提供するお店をオープンしたのだろうか。

「『食』の世界を深く知りたいという思いで様々な勉強を重ね、たどり着いたのがマクロビオティックでした。『素材の味』を大切にしていて、何より美味しい。なぜなら、どのような土地でどのように作られ、どう調理すると素材の味が活きるのかを最も大事にしているからです。オープン当初は自分で学んできたことをベースにしていましたが、さらに深く知りたいと思い、お店を経営しながらリマクッキング(現・マクロビオティック クッキングスクール リマ)に通うことにしました。これまで私の考えていたものがストンと腑に落ちましたね。と同時に、これからの時代にこそ必要なものだと思いました。

モミノキハウス

店内入口に飾られたリマの修了書(記されている氏名は氏の本名)

 

多くのシェフは80% が技術だと思っているように感じるのですが、私は素材が40%、作り手の想像力が40%、技術は20%だと思っています。日本の料理人のレベルは本当に高く、その分野その分野でスペシャリストがたくさんいます。しかし『物事を大きく捉え、全体を観る』ことができる人はどれくらいいるのだろう?と考えることがあります。工夫を凝らして素材を活かそうと考えれば考えるほど、思った料理に仕上がらない場合もありますから。私は『シンプル・イズ・ベスト』を心がけながら、シェフのエッセンスが光る料理を目指しています。」

素材の持ち味を最大限に活かす

モミノキハウスのランチは、どのセットにもひと工夫された野菜が添えられている。中でも人気なのは、玄米と味噌汁がセットになった「自然食set」。取材当日は9種の野菜がプレートに盛り付けられていた。

モミノキハウス

酵素玄米は玄米に比べてよりもちもちとした食感。発酵食品との相性も良い

 

「本日お出ししたのは、エリンギのソテー、白菜の塩もみ、さつまいもペースト、ワラビのきんぴら、揚げナスのジンジャーソース、にんじんといんげんのスチームなどです。ほとんどの野菜を自然栽培農家さんに届けてもらっているので、毎日食材を見て、触って、匂いを嗅いでイメージを膨らませてから調理をしています。市販のものとは香りや色がまったく違うんですよ。実際に農家さんを訪ねることがあるのですが、そういった野菜を作っている畑は良い匂いがするんです。何より違うと感じるのは『エネルギー』ですね。自然の摂理に沿って育てられた野菜を余すところなくいただくわけですから、こんなに体に良いことはありません。味噌汁の具も野菜だけですが、自家製味噌と野菜の出汁だけで美味しく仕上がります。

調理において最も大切にしているのは塩加減と温度です。さじ加減とはよく言ったもので、火が入り過ぎても入らなさ過ぎても素材の味を引き出すことはできません。玄米は20時間浸水させた自然栽培の玄米と酵素玄米の2種を電子イオン水で炊いているのですが、毎回コンディションが違うのでたえず火加減を調整しています。」

どの野菜も素材の味を最大限に引き立たせつつ、甘味や苦味、酸味、食感などをバランスよく感じられるよう心がけられていた。言わずもがな、噛めば噛むほど滋味深い味わいを感じる玄米と胡麻塩の相性も抜群だ。

「白米を提供していないのでオープンから10年ほどは帰られてしまうお客様もいらっしゃいましたが、それでも『自分が食べたいものを作りたい』という想いで続けてきました。売れるものを作るのではなく、自分が納得できるものをお出ししたい。その一心です。」

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ヴィーガン寿司(ディナー提供)。梅酢を使った玄米に合わせるのは、バランスよく味つけされた野菜。自家製の柚子味噌が添えられることも

 

時代の変化と多様化

マクロビオティックや玄米菜食を求めるお客様は女性が多い傾向にあるようだが、近年は男性の来店も増えているとか。コロナウイルスが落ち着きを取り戻しつつあった一昨年秋以降、海外からのお客様も戻りつつあるようだ。

「コロナ前は世界中からお客様が来られていたのですが、3年ほどの間は閑古鳥状態でした。さすがにどうなることかと思いましたね。お陰様で、現在は海外からのお客様で満席になる日もあります。

ベジタリアンやヴィーガンの人たちは、安心して食事ができるお店を調べてから来日することが多いのです。1985年に来店されたスティービー・ワンダー氏もそうでした。ディナータイムに提供した料理をとても気に入ってくれたようで、食後「キーボードをお店まで持ってきて」と音楽事務所に電話をし、即興でライブをしてくれたのです。居合わせたお客様も私も、それはそれはビックリしました。私の料理を素晴らしい演奏で称賛してくれたことは一生の思い出です。」

街や人の移り変わりを50年近く見届けてきたシェフは、近年お客様のニーズが多様化していると話す。その要望に応えて様々な物事を取り入れるべきなのか、我が道を貫くべきなのかを葛藤することもあるそうだ。

モミノキハウス

「中には肉や魚を求めるお客様もいらっしゃるので、ハンバーグなどの肉料理や魚料理も提供するようにしています。基本『食は自由』です。国によって食文化も違いますし、食べる人の趣味・趣向によって好みは変わるもの。誰に強制されるものでもありません。ただ、せっかく日本にいるのであれば玄米と味噌汁はできるだけ摂って欲しい。これは私の想いであり願いです。

一旦は窓口を広くして、後に主力商品に繋げているお店もあれば、何はともあれ大量生産・大量販売というお店もありますよね。お客様もそうですが、経営者の考えも多様化しているように感じます。私の場合、動物性を一切使わないお店に切り替えるという考え方もありますが、それでは一般のお客様を制限してしまうことになりますし、経営面でも続けることが難しくなります。とはいえ、新規のお客様を増やしていかなくてはならない…。私自身、27歳でお店をオープンして今年で75歳になるということは、リピートしていただいているお客様も同じようにお歳を召されているわけですから。

有り難いことに、私のお店にはお子さんやお孫さんと一緒に来られるお客様や、ご友人と来店してくださる常連さんがたくさんいるんです。『安心・安全で美味しいものが食べたいから通っている』という声を聴くたび、心から『続けてきて良かった』と思いますし、体の中からエネルギーが漲ってきます。なのでやっぱり、私は今のスタイルを続けていくんじゃないかなと思います。」

モミノキハウス

店内で販売している自然食品

 

美しい地球のために

マクロビオティックと出会い、人生の羅針盤を手に入れたシェフには二つの想いがあるという。

「私は何より『ミッション』と『ビジョン』が大切だと思っています。私にとっての『ミッション』は玄米菜食の素晴らしさを広めること。そして『ビジョン』は『世界平和』です。このどちらもがあるからこそ、ここまで長くお店が続いている、いや、続けさせていただいていると思うのです。

せっかくこんなに美しい地球に生まれ落ちたのに、争いのある世界では幸せに暮らせないじゃないですか。人間の本能が持ち合わせている攻撃性が影を潜め、お互いが共感できるようになるためには、何より『健康』でいることが大切なのです。そのためにも、自然栽培で育った野菜や玄米を無添加の調味料で調理をしたものを食べて欲しい。そういった観点からも、マクロビオティックの思想や理論が一人でも多くの人に伝わって欲しいと願っています。

また、昨今では家で調理することが減っている傾向にあるようですが、家庭から始まる『食育』も大切だと考えています。お父さんやお母さんが子どもの健康を想って作った料理ほど美味しいものはありませんよね。その味は代々受け継がれていくものだと思いますし、自然な形で教育が成されていれば、何が体に良くて何が悪いかを必然的に理解できるようになるのではないでしょうか。」

モミノキハウス

 

生きる楽しさ

シェフの探究心は古希を過ぎた今でも尽きることがない。それどころか、物事への興味や追求心は増すばかりだと話してくれた。中でも大切にしているのは、一人ひとりのお客様の背景を感じ、ありのままを受け入れることだという。

「私にできることはなんだろう?と考えることはあまりないですね。できると思ったことは全部やってきましたし、今も全力です(笑)。そのほうが生きていて楽しいじゃないですか。お客様からのリクエストで即興で料理を作ることもありますし、時間外のオーダーに対応することもありますよ。

農家さんの畑に出向いたときは、その土地の水を飲み、土を食べます。自分が食べたいと思えないものをお客様に提供するわけにはいきませんからね。どんな想いで育てているのかを聴いて、勉強させていただくことも多々ありますよ。自然を感じ、大地を感じ、ときには山に登り、自然をめで、心地よく疲れたらぐっすり眠る。朝目覚めるたびに『生かされているな』と感じます。

お客様に味つけを聞かれたとき、あまりにシンプルな調理法で驚かれることがあります。しかしそこには、これまでの私の経験と知恵、直感力が存分に発揮されています。理屈ではなく、まずは食べてみて欲しいですね。よく噛んで、一つひとつの素材を味わううち、自然と五感や判断力が磨かれ、感性が研ぎ澄まされていくのを感じていただけたら何より嬉しいです。」

お店の机に「宇宙の秩序」と書かれたフリーノートが置かれていた。そっとページをめくると、驚くほど多種な言語でお客様の感想が綴られていた。中でも目を引いたのが「シェフに会いに来た」という数々の言葉。大きな心で何事をも包み込むシェフの心と熱い想いが多くの人々を惹きつけているようだ。

モミノキハウス

※本記事の内容は2023年12月18日現在のものです。

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INFOMATION

住所:渋谷区神宮前2-18-5 TEL:03-3405-9144
定休日:夏季休暇・冬季休暇
営業時間:
月〜土
Lunch Time 11:00〜15:00( L.O. 14:30)
Dinner Time 17:00〜23:00( L.O. 22:00)
日・祝
Lunch Time 11:00〜15:00( L.O. 14:30)
Dinner Time 17:00〜22:00( L.O. 21:00)
アクセス:JR 山手線「原宿駅」より徒歩10分
地下鉄千代田線「明治神宮前」より徒歩7分
※定休日以外にお休みをいただくことがあります。詳しくはお問い合わせください。

モミノキハウス

MOMINOKI HOUSE(モミノキハウス)
https://www.mominoki-house.net

 

 

山田英知郎/やまだ えいちろう
東京生まれ。東京・芝パークホテルでフランス料理を習んだ後渡米し、ペンシルヴァニア州で修行を続ける。その後、英国に渡り、ロンドンのローリーズ・レストランで働きながら勉学に勤しむ。帰国後、マクロビオティック クッキングスクール リマ師範科(現アドバンスⅡコース)修了。1976年、東京・原宿に日本で初めての自然食レストラン「MOMINOKI HOUSE」をオープンし今年で48周年を迎える。NPO法人日本スローライフ協会理事、NPO法人ナチュラルフードプラネット理事長。

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