【第24回】資料で振り返る桜沢如一の思想と生涯
※月刊「マクロビオティック」2022年12号より転載
※第27回以降は「マクロビオティック ジャーナル」にて連載中
第25回:中年期⑨
ナビゲーター:高桑智雄(桜沢如一資料室室長) 協力:斎藤武次、安藤耀顔
新総合雑誌 「LE COMPAS( ル・コンパ)」創刊
桜沢如一は、終戦後の年である1945年( 昭和20年)12月に発行した「MUSUBI No.116」の冒頭のゆきかず通信にて「1945.11.20朝4、三好邸にて。今朝はスコブル調子がよい。もう大丈夫! ずい分長い間自分も苦しみ、みんなに心配させたが、もう大丈夫。」と宣言します。その年の1月から投獄され、8ヵ月に渡り拷問を受け、出所後もその影響で病床に伏していた桜沢は、11月に完全復活し、P.U.D( 無双原理大学講習)やP.U.C( 無双原理講究所)の活動を開始します。
そして、この誌上のトップページで、大々的に発表されたのが、今回紹介する資料である新総合雑誌「LECOMPAS( ル・コンパ)」の創刊のお知らせでした。この雑誌は、終戦という大きなターニングポイントにおいて、心機一転、戦後の桜沢の活動の指針を表明していくために「MUSUBI」に変わる新たな機関誌となり、桜沢の無双原理、そして宇宙の秩序といった思想の深化を知る上での最重要の資料となります。左の写真は、1946年2月に発行された創刊号の1ページ目( 創刊号には表紙はありません)です。右の写真は、同年5月に発行された第2号の表紙です。
右は、同年5月に発行された表紙がついた第2号。いずれもA4版で第8号からA5版へと変更される。
ここで注目していただきたいのは、左の写真のタイトルにある方位磁石の中に「PU」と書かれたマークです。つまり「ル・コンパ」は、フランス語で「方位磁石」を意味し、敗戦し路頭に迷う日本、そして大戦後、世界にさまざまな新しい技術と思想が入り乱れる人類文明の大混乱期に、P.U( 無双原理)が自由と幸福と健康の方角を教える方位磁石となるとします。そして桜沢は、その磁石を実用的に実生活の中で使うことが、世界秩序建設の要となり、この「ル・コンパ」は世界秩序建設運動のモニターとなると宣言します。創刊号の内容は、戦後の「MUSUBI」を継承する形で、欧米精神を無双原理で見直す記事が羅列されますが、号を追うごとに、無双原理、宇宙の秩序といった桜沢の思想的展開をリアルタイムで発表する理論雑誌の体をなしていきます。
戦前から戦後に切り替わるターニングポイントで創刊された「ル・コンパ」は、斎藤武次氏が指摘するように、石塚式食養法を中心とした「食養指導運動」から、無双原理という健康増進や病気治療にとどまらない、あらゆる人間の平和と幸福な基本活動原理を中心にした「生活指導運動」へと桜沢の運動が新たな地平に展開した記念碑的作品と言えます。
真生活協同組合の設立
そして、この「ル・コンパ」を配布する機関でもある新たな団体として、1945年( 昭和20年)12月に創設されたのが、「真生活協同組合」でした。食養会の有力な会員であった小林類蔵氏の自宅である東京芝区三田小山町に設立された真生活協同組合( PUCOOP )は、当時の組織図( ※安藤耀顔氏提供)を確認すると、「原理を体得し事業もしくは研究発明」を目的とし「原理実現の最高指導群」で組織される「無双原理講究所( P.U.C )」の下部組織として、「原理を実社会に実現する機関」と定義されています。
おそらくは「MUSUBI No.115」(1945年11月発行)で扱った、アプトン・シンクレアの自伝的小説の中に出てくる協同組合の設立に触発されたものと思われますが、1948年( 昭和23年)にちょうど消費者生活協同組合法が制定されていることから、世相的にも協同組合の組織化が活発になっている時代だったのかもしれません。
桜沢は、この協同組合の目的を、「同志にP.U の的確な見通しに従った健全な、自由な楽しい真生活を確保するために各種の物資(衣、食、住、事業、學術、職業、教養、文化全般にわたる)生産、分配、消費、貯蔵、交換、研究等の実地指導と実際、実物提供を確保する世界唯一の物心一如十全生活COOPRETIVE」であると言います。
そして「ル・コンパ」第2号の「真生活とは何か」で「新生活」ではない「真生活」の定義を行います。桜沢は、1947年( 昭和22年)に改正される日本国憲法の草案にある「戦争放棄」の規定に対し、法律によって戦争を放棄することは出来ないと言います。そしてどうしたら戦争を放棄し、「真の自由と平和を愛好し得る人、人民」を創るかが問題であるとします。そのためにはまず「争いなき我家」を創ること、そしてその争いなき家庭が百万軒増えれば絶対に戦争から遠ざかることができるとします。つまりは、真の平和は国や法律が創るのではなく、一人の人の心、そして毎日の家庭での生活から始まると言うのです。
また、世界の民衆はいまだ戦争の恐怖から開放されておらず、そもそも侵略とは、世界の人々の物の量、物の質、物の組み合わせへの大きな錯覚が原因であるとします。つまりたくさんの物を得られれば、より長生き出来るという誤解、食が足りなければ死んでしまうという不安が、他国への侵略心を高めるのだとします。そして「身土不二の原則」がその唯一の解決方法だとし、それを知っている私たちは、争いなき国家を世界各国へ押し進めることが出来ると宣言するのです。
桜沢の「真生活運動」とは、無双原理と実生活をイコールで結び、一人ひとりが強く楽しく生きることが、世界の真の平和につながるという運動であり、それは個人の健康の確立という食養運動から、世界平和のための生活運動という桜沢の戦後の活動発展の出発点となるのです。
そして現在の「日本CI協会」の前身は、この77年前に設立された「真生活協同組合」が始まりだとされています。
著者プロフィール
高桑智雄/たかくわ・ともお
桜沢如一資料室室長。
1970年生まれ。2001年に日本CI協会に入社し、桜沢如一の陰陽哲学に感銘を受ける。
故・大森英櫻のアシスタントを担当した後、2011年より桜沢如一資料室の立上げ、運営に携わる。2023年より電子雑誌「季刊マクロビオティックジャーナル編集長に就任。
編集・執筆に「マクロビオティックの陰陽がわかる本」「マクロビオティックムーブメント」」など。2015年発行の人気書籍「マクロビオティックの陰陽がわかる本」の編集者であり、 月刊マクロビオティック・コラム「Café de Ignoramus」連載中。