【ジャーナルWEB公開記事】2025年春号「提言」吉良 さおり

提言 吉良 さおり
変わらないもの
2008年にスタートした雑誌『veggy』は、おかげさまで2025年5月で100号を迎えます。そもそも私が日本初のプラントベースマガジンを始めようと思ったきっかけは、これから自分自身が自然な出産をして子供を育てていくというフェーズの中で、長年取り入れていたホリスティックな健康法や安全な食にまつわる情報などの間口がとても狭く、且つ一般的にはどこかオカルト的に捉えられがちだった風潮に、何かしら一石を投じたいと感じたからです。もちろんその頃の思いは今も変わらず、私自身の制作や活動意欲を掻き立てる原動力のひとつとなっています。
世の中が目紛しく変化し、時代と共にそれまでの様々な常識も一新していく中、常に変わらないものがあるとしたら自然界や宇宙の真理だと思っています。私がマクロビオティックを最初に知ったのはまだ20歳ぐらいの頃で、フランス留学時によく通っていたパリ11区にあったラルクアンシエール(仏語で虹という意味)という名の自然食品店でした。そこに出入りするようになってから、パリ中の数少ないマクロビオティックのレストランに通い、原因不明の肌荒れを早く治したいという思いで、色んな食事やハーブ療法などを手探りで勉強していたのですが、マクロビオティック然り自分の中で腑に落ちることは、どれも宇宙の法則を体現化していると今になってようやく理解できるようになりました。
私たち一人ひとりが小宇宙
古来から様々な偉人が私たち人間こそが宇宙の縮図だとし、人体を小宇宙として研究してきた歴史があります。例えば数学者・哲学者のピタゴラス(紀元前7世紀)は宇宙全体が調和の原理で成り立っていると考え、人間もその一部だと説き、医学の父とされるヒポクラテスも、人体を自然界や宇宙の一部と見なし、宇宙の調和が人体の健康に影響を与えると考えました。
さらに哲学者のプラトン(紀元前4世紀)は『ティマイオス』で、宇宙をひとつの生きた有機体とみなし、その構造が人と対応しているとして「宇宙は魂を持つ存在」だと考え人の魂と宇宙の魂を対比しました。インドのアーユルヴェーダやヴェーダ文献では人体を構成する要素(五大元素:地・水・火・風・空)が宇宙の構成要素と同じだとし、中国の道教では天(宇宙)と人は繋がっているとする天人合一があります。陰陽五行説では人体の臓器や機能は五行(木・火・土・金・水)に対応し、宇宙の構成要素と完全に一致すると考えられてきました。他にもパラケルスス、ルドルフ・シュタイナー、桜沢如一など様々な人々が同じようなことを伝えています。
最近では人間の脳内神経細胞と無数の銀河集団を結ぶ宇宙の大規模構造のイメージが似通っていることが話題となっていますが、古来は見えなくても感じたり理解できていたことが、どんどんリアルに可視化できる時代になってきました。
AI (人工知能)が驚異的な進化を遂げ、一瞬でビジョンや考えを再現してまとめることができたりと、私たちの生活がより便利になる一方、気をつけなければならないのはそれを扱う人間側の倫理観、早急に思い出さなければならないのは私たちが忘れてしまった直感や感覚だと感じます。
自分の宇宙と繋がる
そもそも日本は古来から自然崇拝で、自然や宇宙と繋がって生きているのが当たり前という文化がベースにあります。今でこそマインドフルネスや瞑想のメリットが一般的になってきましたが、日本の神道では宇宙の無限性と調和を日常生活の中で体現するための思想として「中今」があります。宇宙は惑星や星々の運動から物質の生成や崩壊など、常にバランスを保ちながら循環し調和と循環の法則で成り立っていますが、中今の実践の真意はこの宇宙のリズムに自らを調和させることにあります。要するに中今とは0ポイントであり、どちらにもぶれていない静かで完全に中庸の精神状態であり、古来からある自分の中の宇宙と繋がるためのシンプルな方法です。
地球はもちろん宇宙も絶えず変化していますが、私たち人間も地球や宇宙の一部であり、絶えず変化しながらお互いに影響を与え合っています。だからこそ宇宙から見たら見えない程の小さな生命体であっても、私たち一人ひとりが精神や魂を整えて高めつつ宇宙の調和やバランスに貢献する必要があるのではないかと感じていますし、それがひいては私たちの心身の真の健康や悟りへと繋がっていくような気がしています。
常々私たちは過ぎ去った過去や起こってもいない未来に捉われがちですが、今に集中するクセを身につけて自分自身を中庸に保てるようになった時、目の前に巻き起こるどんな変化も恐れずに淡々と歩んでいけるようになるのではないでしょうか?
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著者プロフィール
吉良 さおり/きら さおり
雑誌『veggy(べジィ)』編集長。健康、美容、ホリスティック、スピリチュアル、エコロジーなど、人や地球に優しい本を出版するメディアカンパニーであるキラジェンヌ株式会社代表。20代前半をイギリスやフランスで過ごし、ヨガ、マクロビオティック、ローフード、アーユルヴェーダ、薬膳などのプラントベースの健康食を日常に取り入れ始める。2008年に「プラントベースで楽しむヘルスコンシャスライフ」をテーマにしたライフスタイル誌『veggy』を創刊。現在は講演やトークショー出演、コメンテーター、コンテンツプロデュース、企業コンサルティング、イベント企画など幅広く活躍している。
http://veggy.jp
