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【ジャーナルWEB公開記事】2023年秋号「提言」川嶋 朗

人生100年時代に求められる医療とは?
~ 統合医療とShared Decision Making ~

神奈川歯科大学大学院統合医療学講座特任教授
統合医療SDMクリニック院長
川嶋 朗

20世紀に花開いた西洋医学は急性疾患や感染症などの原因究明とともに、その治療を可能にしてきた。しかしその反面、生活習慣病などの慢性疾患、原因不明の疾患、精神的な要素の関与する疾患、再発性の疾患などについては治療に苦慮する例も少なくない。加えて個々の体質や体調を考慮した治療はほとんどなされていない。

もう一方で、西洋医学による医療費が高騰し、国家経済を脅かそうとしている現状も見逃すことができない。少子高齢化による西洋医学の医療費高騰は深刻な問題である。欧米では近代西洋医学の欠点を補う補完代替医療を治療の選択肢として考慮することで、全人的医療を提供する統合医療の理念が確立された。日本には国民皆保険制度という世界に冠たる医療制度があるが、このためか日本国民は健康増進への意識が高い方ではなく、健康維持に努めるどころか通常は放置状態で、健康を損なった場合に医療者に依存すればよいといった傾向が強い。

その結果国民医療費は増大の一途をたどり、このままでは日本は破綻してしまいかねない。

人口構造が変化し、1970年ころまでは20%程度だった50歳以上の割合が急激に増加している。2060年には50歳以上は60%(65歳以上は40%)程度になると試算されている。超高齢社会である。人生100年時代を迎え、高い医療水準と医療技術で治す医療から高い幸福度やQOL(クオリティ ・オブ・ライフ=生活の質)を実現する癒す医療が求められている。それをいち早く見越した欧米ではこの理念を含む統合医療が盛んにおこなわれるようになってきている。

統合医療は単純に近代西洋医学と補完代替医療を組み合わせた医療ではない。統合医療を臨床からの表面的な視点で捉えてはいけない。統合医療の統合はCombinationではなくIntegrationである。統合医療とは、「個人の年齢や性別、性格、生活環境さらに個人が人生をどう歩み、どう死んでいくかまで考え、西洋医学、補完代替医療を問わず、あらゆる療法からその個人にあったものを見つけ、提供する受診側主導医療」なのである。人を幸せにする医療と言い換えてもよいだろう。

治す医療である西洋医学については、基本的にEBM =Evidence-based Medicine(根拠に基づく医療)が求められるが、EBM は人工知能に凌駕される日が来ることは明らかである。2017年、東京大学医科学研究所に入院していた急性白血病の患者さんの治療が奏功せず、敗血症の危険も生じていた状況で人工知能による分析の結果、別の診断が下され、人工知能による治療に変更したところ、軽快退院に至った。人工知能は10分間で2,000万件の論文を読破する。人工知能の台頭によりEBM についての人間の医師の必要性は低下するだろう。しかしながら、癒す医療(補完代替医療)は科学的根拠に乏しく、人工知能では対応が難しい。科学的根拠に乏しい癒す医療こそ人間の医療者にしかできないのである。それは科学的根拠だけではなく、価値観や人生観、死生観まで理解できるのは人間だけだからだ。今、改めて統合医療が必要な時代なのである。

統合医療に含まれる補完代替医療のような科学的根拠に乏しい医療をどのように提供するかについてはこれまでの提供者の意思しか反映されないInformed Consent(医師が説明をし、同意を得ること)では不十分で、提供する側とされる側の間に新たな関係性が必要である。それがSDM = Shared Decision Making(協働意思決定)である。SDM とは「質の高い医療決断を進めるために、最善のエビデンスと患者の価値観、好みとを統合させるための医療者と患者間の協働のコミュニケーション・プロセス(※)」である。SDM を用いて統合医療を駆使すれば理想的な医療の姿も実現できよう。しかしながら、日本では医学界や行政が統合医療を積極的に取り組んでこなかったため、統合医療の正しい実践がなされず、さまざまな民間療法が野放し状態となり、これに依存した、いわゆる癌難民などの被害者もあとを絶たない。

行政による規制が進まない現状で、統合医療という概念が日本に浸透し、国民を守るには、正しい知識や実践方法などを、医師も含めた提供者に教育することが急務である。とはいえ、これまで、日本には補完代替医療を総合的に学べる高等教育機関はなかった。

2022年4月、神奈川歯科大学大学院に統合医療学講座を設立し、日本初の高等教育機関による統合医療の教育が始まった。予防医学の柱になる食事療法は日本CI協会にもご担当いただいている。漢方医学、アーユルヴェーダなどのアジア伝統医学、アロマセラピー、ホメオパシーなどのヨーロッパの伝統医学、カイロプラクティック、オステオパシーなど欧米では認められているにもかかわらず日本では認められていない施術などのみならず、癌やメンタル領域へのアプローチ、そして医療に欠かすことのできない医療哲学、さらには研究法など2年間で統合医療の基本を習得することができる。

統合医療はこれからの時代に必要な医療である。だからこそ正しい統合医療を普及しなければならない。

(※)参考文献:Erica S Spatz ES, Krumholz HN, Moulton BW: The New Era of Informed Consent: Getting to a Reasonable-Patient Standard Through Shared Decision Making. JAMA 315(19): 2063–2064, 2016

著者プロフィール

かわしま あきら
北海道大学医学部医学科卒業。医師。東京女子医科大学大学院医学研究科修了。医学博士。ハーバード大学医学部マサチューセッツ総合病院留学、東京女子医科大学腎臓病総合医療センター内科&血液浄化療法科准教授、同附属青山自然医療研究所クリニック所長、東京有明医療大学教授などを経て現職。2022年4月より日本初の高等教育機関による統合医療教育を実施中。「よりよく生きる」「悔いのない、満足のいく人生を送る」ための心得として、「自分の理想的な死とは何か」を考えるQOD(クオリティ・オブ・デス=死の質)の提唱者。日本内科学会認定医・総合内科専門医、日本腎臓学会学術評議員・専門医、日本透析医学会評議員・専門医、日本予防医学会理事、日本東方医学会理事・学術委員、国際生命情報科学会常務理事、日本ホリスティック医学協会常任理事、日本催眠学会理事、比較統合医療学会評議員、日本抗加齢医学会評議員、日本抗加齢医学会評議員、ホルミシス臨床研究会代表理事(理事長)、NPO統合医療塾塾頭、日本ホメオパシー協会顧問一般社団法人健康科学研究所理事。主な著作:心もからだも「冷え」が万病のもと(集英社新書)、医者が教える死ぬときに後悔する34のリスト(アスコム)、ヘルシーエイジングのための自然医療(医学と看護社)、病気で死なない生き方33(講談社)、病気の9割は「あ・い・う・え・お」で防げ!(創英社/ 三省堂書店)、キレイが目覚めるドライヤーお灸(現代書林)、毎日の冷えとり漢方(河出書房新社)、終末までの生き方(ビオ・マガジン)など著書多数。

川嶋朗 公式サイト
https://drs-net.com/

神奈川歯科大学大学院 統合医療学講座
http://www.graduate.kdu.ac.jp/togoiryo/

川嶋 朗

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