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【ジャーナルWEB公開記事】2024年春号「はじめ塾レポート」

はじめ塾

vol.4 野焼き土器作り合宿

和田 正宏

はじめ塾では「人は人によって育つ」との考えから、年間を通じて各界の第一線で活躍されている様々なゲストを迎えて生活を共にする合宿やワークショップを行なっています。塾生の中でも寄宿している子達はほぼ全員のゲストに出会います。その結果、彼らは年間50人ほどの人に出会い、ゲストの人柄に触れる機会を持ちます。極論ですが、もし子ども達がゲストの中から「白を黒と言われても、この人が言うなら提案にのれるという人生の師のような人との出会い」が生まれたら最高に嬉しいと考えています。そうでなくとも、ゲストとの出会いから自分の世界が広がる悦びを得るチャンスになったら最高です。

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最近では、陶芸家の柴田貴澄さんご家族をゲストに迎えて2泊3日の野焼きの土器作り合宿を行いました。1日目と2日目の夕方まで、粘土を捏ねての土器作りと乾燥をします。土器は、それぞれが好きなものを作ります。皿や物入れ、壺、はにわ、鈴、風鈴、オカリナと思いつく限り、時間がある限り、作り続けます。できた順に乾燥を始めますが、乾燥中に割れの入る物もあるので、それを一つひとつ貴澄さんと有志の子ども達で修復し続けます。この制作、乾燥過程で、参加者は彼の気の行き届いた仕事を体験します。丁寧な心遣いや気の回し方に触れることで、子ども達は自然と彼のようにやりたくなります。まさに、家庭の台所での小さい子達のお手伝いと同じです。合宿では、そうしているうちに子ども達は手伝いから、一人前の役割を果たす担い手に変わっていきます。そんな時の満足そうな子ども達の表情は最高です!

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この合宿中、柴田さん親子の実際の作品も展示されました。また、2日目には柴田さんのご好意で武夷山(ぶいさん)の岩茶を柴田雅章(お父様)作の茶器でいただきました。さらに貴澄さんの奥さん手作りの丹波小豆のスイーツ付きです。天気も良かったので、気持ちの良い青空のもと、みんなで楽しくいただきました。作り手の人柄に触れ、一緒に制作作業をし、彼らの器を実際に手にし、さらに使ってみると、それまでの単なるモノとしてしか見えていなかった器が全く別のなにか光輝く物に変わります。人の実感は、理屈が伴わなくてもその人の生きる世界をガラリと変える力を持っているのです。

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子ども達が一番楽しみにしていたのが2日目の晩です。希望者は土器を焼くため一晩中寝ずの火の番をします。なんと寝なくていいどころか、寝ないと誉められちゃうのです。さらに寝ずの番をすると宣言しても、眠くなったら寝に行くのも自由で、誰からも責められません。子ども達にとってこんなに愉快な体験はないでしょう。今回も5人の子達が一睡もせず、早々に寝た子もいましたが3時頃まで頑張った子もたくさんいました。翌朝、寝ずの番を完遂した子達はみんなに褒め称えられ、本人も満足感でいっぱいです。その様子を横目にしながら、3時まで頑張った子達の1人2人はアレコレ言い訳をしたがりました。僕は彼らがその言い訳を口に出す前に、被せるように次のことを伝えました(言い訳を子どもの口から出させないことには理由がありますが、説明が長くなるので割愛します)。「えらいよね!ちゃんと寝られるなんて!」と無理に頑張らず、途中で寝に行ったことを認め、褒めてあげます。要は、彼らを安心させてあげることが大切なのです。そうすることで次の機会に安心して挑戦できる子に育つ助けになるのです(この対応の仕方も一概に決められません。相手の年齢や個人の違いにもよるからです)。

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3日目の朝、いよいよクライマックスです。参加者全員で協力して焚き上げを行います。この焚き上げで1,000度以上に温度を上げ、煤を焼き切った綺麗な土器に仕上げるのです。この前までの過程は、この時のための準備だったと言っても過言ではありませんし、それら丁寧な準備の積み重ねを一気にまとめ上げて完成させる瞬間なのです。この時に「真剣にやれよ」とか「ふざけるなよ」なんて言葉は誰からも一切出ません。誰もが本気にならざるを得ない炎の熱を感じているからです。一言で言うと「めちゃくちゃ熱い!」のです。こうして大人も子どもも自然と本気になる体験をしました。

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火が落ちてくると徐々に炭の隙間から焼けた土器が顔を出してきます。本当にドキドキの瞬間です。その後、数時間自然に温度が落ちるのを待って無事みんなの土器は完成しました。天気にも、焚き上げ用の薪にも、そしてメンバーにも恵まれ、ほとんどの土器がきれいに焼き上がりました。

僕自身は合宿後の驚きもありました。あの圧倒的な炎のエネルギーですごい陽性になったからでしょうか、人生で初めて、美味しい自家製の梅干しを食べられない3日間を体験したのです。口に入れると酸っぱさで全身が身震いしてしまうのです。もちろん体調や諸々の原因もあるのでしょうが、僕にとっては初めての貴重な体験でした。

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著者プロフィール

和田 正宏/わだ まさひろ
寄宿生活塾はじめ塾塾長。1971年生まれ。1992年から1年間大学を休学し、Boston のKushi House、Kushi Institute で久司道夫・アベリーヌ夫妻からマクロビオティックな「とらわれない生き方」を学ぶ。帰国後、橋本宙八・ちあきご夫妻の福島での自由な生き方に憧れ、田中愛子先生の何物にもとらわれない奔放で魅力的な生き方に出会い、大きな影響を受ける。大学卒業後、神奈川県の私立小学校に3年間勤めた後、ドイツのミュンヘンにてモンテッソーリ教育について学ぶ。帰国後、寄宿生活塾「はじめ塾」の3代目塾長を継ぐ。
https://hajimejyuku.jp/

和田 正宏

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