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【ジャーナルWEB公開記事】2025年春号 「プロフェッショナル メニュー」第8回|ホテル クアビオ

ホテル クアビ

※本記事の内容は2024年12月20日現在のものです。

第8回|ホテル クアビオ

取材・文/篠崎 由貴子

今回は群馬県吾妻郡草津町にある日本初のウェルネスリゾート「ホテル クアビオ」のオーナー宮田喜代美さんと、シェフの落合昭あきみつ光さんにお話をお聞きしました。「治癒・回復・治療」を意味するドイツ語のKURと「生命」を表すギリシャ語のBIOSをコンセプトに、心身の健康を取り戻して欲しいという想いで造られたクアビオは、それまでにはなかった「くつろげるリゾートでのファスティング(断食)や、おいしく華やかな自然食を楽しめるホテル」という新しいスタイルが特徴で、国内外のお客様から多くの共感を得ているそうです。

生まれ変わる心と体

クアビオ誕生には宮田さん自身が経験した体の不調が大きく起因しているという。18歳のときにアメリカの大学へ進学。卒業後、海外のリゾートホテルでPRとして働いていたところ、婦人科系の病気を患い20代で2度の手術を経験したそうだ。

「大学の寮の食事も典型的な米国食でした。ヨーロッパ各国やアジア諸国など、気候も食文化も異なる国々で仕事をしている間も自分の好きなものだけを食べていましたね。目に見えない不調が日増しにひどくなり、病院を受診したり漢方やサプリメント、整体などありとあらゆるものを試したのですが、それらが改善することはありませんでした。

大きな転機となったのは、帰国後に初めて体験したファスティングでした。一度の断食で体調が驚くほど良くなり、手当て法も交えながら定期的に続けたことによって健康な体を取り戻すことができたのです。そのときに玄米菜食を知り、マクロビオティックに興味を持ったことから夢中になって関連書籍を読んでは実践を繰り返す日々を過ごしました。点と点が結ばれて自分の中にストンと落ちていく感覚は今でも忘れることはありません」

ホテル クアビ

100%源泉かけ流しの温泉(あつ湯と少しぬるめの寝湯)

食を見直すことで笑顔を取り戻した宮田さんの姿を目の当たりにしたお父様から「心と体が健康になるホテルを造ってみないか」と提案があったのは、それからまもなくのことだった。日常のストレスから解き放たれ、自然の中で心ゆくまで癒される空間を想像し、草津での開業を決意。建物の設計や温泉設備、空間デザイニングすべてを宮田さんがプロデュースし、2008年に誕生したのがクアビオだ。

素材を活かす匠の技

クアビオでは「食べる発見・食べない発見」をお客様自身が選択できる。1泊2日のフレンチマクロビプランのお客様には精選した素材の持つ味わいを存分に感じられる五感が喜ぶ料理を、ファスティングプランのお客様には食べないことによりいかに体が心地良くなるかを体感してもらえるよう、様々な配慮がなされている。

玄米は20年以上無農薬栽培を続ける水田で収穫された国産酵素肥料を使用したもの、野菜は草津周辺や契約農園で大切に育てられた有機・無農薬・自然農法などを中心に手に入る限りのオーガニック食材を使い、自然に則った調理法で丁寧に調理されているそうだ。落合シェフはどのような観点から料理にアプローチしているのだろうか。

「フレンチマクロビプランのディナーは順番、量、タイミングすべてが大切だと思っています。コースでお出しするので一皿で表現する美しさにも細心の注意を払うよう心がけていますね。彩り豊かな料理は体だけではなく、心も豊かにしてくれますから。

写真中央の『根菜のパートブリック焼き キャベツのロースト カシューナッツソース』は、サトイモをパートブリック(水で溶いた小麦粉を薄く焼き上げたもの)で巻いています。キャベツと醤油麹やレモン果汁で味つけしたソースと合わせていただくことで、様々な食感を楽しめる一品に仕立てました。

左下の『ほうれん草と黒ごまのリゾット』は、ストックしておいた端野菜で作ったベジブロス(野菜出汁)で炊いた玄米にジャガイモやニンジンなどの野菜をペーストにしたものを加えてとろみを付けています。鉄火味噌を加えるとチーズのような風味を感じることができるんですよ。

右下の『豆腐のクリームチーズズッキーニのカネロニ風』は豆腐にニンニク、ドライトマト、味噌を加え、火を入れたズッキーニで巻いています。クアビオのガーデンで採れたハーブや食用花なども、一皿を演出するために必要不可欠なアイテムですね」

ホテル クアビオ

フレンチマクロビディナーの一例

「ビーツのゆっくりロースト」はシェフのスペシャリテ。草津の四季に触れ、シェフ自身が体感した様々な想いを表現した一品だという。

「昨年あたりから近郊で有機のビーツが通年出回るようになったこともあり、収穫時期によって大きさや味が違うのも面白いのではないかと考え、メイン料理に仕立ててみました。オーブンを使い、低温で8時間かけて丸ごとローストしたビーツは驚くほど甘くてジューシーなんですよ。皮は火を入れてから剥いて、イチジクやブルーベリーなどの赤い果物、赤ワイン、木苺のビネガーと合わせてキリッとした酸味を持たせたソースにしています。リンゴやクルミなどの食感のある食材や、ワカメとビーツのピュレを添えたりと様々なアクセントを散りばめているのですが、そのどれもがお互いを引き立てる一品に仕上げているので、初めてのお客様にもリピーターの方々にも好評です」

ホテル クアビオ

ビーツのゆっくりロースト

地元の生産者との繋がりから生まれたオリジナル料理は今もなお進化し続けているという。お客様との会話からアイディアが浮かぶことも多く、それら一つひとつの学びを料理に体現できることが何よりの喜びだと話してくれた。

「ニンニクを使うの?と思われる人もいるかと思いますが、マクロビオティックは本来食べものを制限するものではないと考えています。体調の変化を見極めながら食べるものを調整することが何より大切なのではないでしょうか。あまり厳しく捉えると視野も想像力も狭くなってしまいますよね。週に一度は肉や魚を食べたいと思う日があっても良い。ジビエやオーガニックビーフを提供しているのも、そういった観点からです。野菜や穀物と同じように、どのような場所で何を食べて育ったのかを熟知した上で、その命を有難くいただくという意味では、マクロビオティックの考えに則っているのではないかと思っています」

朝はニンジンジュースから

クアビオでは1日24時間を排泄・消化・ 吸収の3つのサイクルで考え、排泄の時間帯である朝食は固形物を摂らないスタイル。 全国から旬の人参を仕入れて低温圧搾したニンジンジュース、三年番茶、梅干しで体内時計を整える。早めの昼食として提供される一皿には、彩り豊かな新鮮な野菜の他、クスクスやレンズ豆なども添えられていた。菊芋をベースとした豆乳とレモン果汁で作ったマヨネーズソースは爽やかな風味が特徴で、どの食材とも相性が良い。

「最初はパンに挟んだものをお出ししていたのですが、目でも楽しんでいただけるようにとお客様自身でサンドしていただくスタイルに変更しました。ファラフェル(豆のコロッケ)は少量の野菜の他、数種類の香辛料を使うことで味のアクセントになるよう存在感を持たせています。

スープはベジブロスが基本ですが、干椎茸や昆布でとった二番出汁を合わせることもあります。具材は端野菜を中心に、豆類や海藻を合わせたり、トマトを使ってミネストローネ風にしたりと連泊されるお客様が飽きない工夫をしています。水は車で30分ほどの場所にある湧水を使っているんですよ。地元の人に教えてもらったのですが、とてもまろやかな味わいで野菜本来の味を引き立ててくれるので週に一度は自分で汲みに行くようにしています」

ホテル クアビオ

昼食の一例(ファラフェル・サラダ・スープ・ピタブレッド)

クアビオのファスティングプランは水のみを摂取する断食とは異なり、体に必要な栄養をジュースから取り入れて消化機能を休ませ、脂肪燃焼と体内の老廃物や有害物質を排出させる体に優しいもの。既出のニンジンジュースや三年番茶をメインとしたものとなり、最終日の朝には回復食をいただく。

「玄米粥、自家製梅干し、味噌汁、大根おろし、時間をかけてふっくらと煮た特産の花インゲン豆など、胃腸に負担のかからないメニュー構成にしています。味噌汁は全体のバランスを考えて、白味噌をベースに3種類ほどブレンドしてやや甘めに仕上げ、ファスティングプランのお客様にもフレンチの要素を感じてもらいたいという想いから陶器に盛り付けてスプーンでいただくスープのような位置付けで提供しています」

お帰りの際に玄米おにぎりと自家製漬物をお土産としてお渡するといったもてなしもクアビオならでは。「日常に戻ってからもお客様の健康を願っています」という想いが込められていることを知り、胸が熱くなった。

ホテル クアビオ

ファスティング(断食)明けのお腹に優しい回復食

必然の出会い

クアビオとの出会いからマクロビオティックを知ったと話す落合さんの言葉を聞いて驚いた。長年フレンチのシェフとしてホテルやレストランで研鑽を積む日々を過ごしていたところ、徐々に体の不調を感じるようになり、食生活を見直す必要があるのではないか?と思うようになったことがきっかけだったそうだ。

「仕事中心の生活が何十年も続いたことが起因しているのではないか、これからの人生をどう過ごしていくかを考え始めたのは3年ほど前です。クアビオを知ったのはちょうどその頃ですね。コンセプトに惹かれ、早速オーナーにコンタクトを取りました。話を聴けば聴くほど『今の自分にマッチしている』『クアビオでお客様に喜んでいただける料理を作りたい』という強い想いが芽生えました」

動物性食材の旨味を融合させる、いわば「足し算の料理」に携わってきた落合さんは、今までとは異なる環境で素材と向き合い、様々なアプローチをしてみたいと思い始めたそうだ。「それまで学んできた技術が通用しない場面も多々ありましたが、それらの経験が糧となり、インスピレーションが掻き立てられて新しい世界が広がりました」と話す生き生きとした笑顔が強く印象に残っている。とはいえ、マクロビオティック料理のノウハウを知らないシェフをクアビオに招いた宮田さんに不安はなかったのだろうか。

「それまでの経歴もさることながら、落合さんの実直で探究心あふれる人となりに惹かれました。話を重ねるうち、『マクロビオティックを知らないなら、私の培ってきた知識をすべて伝えよう。彼の経験とマクロビオティックの知恵をコラボレーションした料理なら、きっとお客様にも喜んでいただけるはず』という未来が想像できたのです。一物全体や身土不二といった言葉をレクチャーしたときも、すぐに皮を剥いた野菜と剥いていない野菜の味の違いを研究したり、調理工程の見直しをしていましたね。それらを落とし込んで作られた彼の料理を食べたとき『やはり間違っていなかった』と思いました。マクロビオティックに執着しすぎず、一般的な視野を持ち合わせた落合さんだからこそ表現できる世界があるのだと思います」

草津の地で過ごし、様々な経験を経た今はプレッシャーではなく「醍醐味」を感じているという落合さん。現在は「目にも鮮やかな驚きを感じられる料理を提供したい」という想いに溢れているそうだ。宮田さんはクアビオの今後についてどのように考えているのだろうか。

「おかげさまで週末は満室になることが多いのですが、平日は若干空室があるのが現状です。どのような工夫をすれば足を運んでいただけるかが課題ですね。日本三名泉に数えられる草津の湯に浸かりながら、11室だけの寛げる空間でゆったりと過ごす時間を一人でも多くのお客様に体感していただけるよう、スタッフと話し合いを重ねながら居心地の良い空間づくりをしていきたいと思っています」

※本記事の内容は2024年12月20日現在のものです。

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INFOMATION

住所:群馬県吾妻郡草津町草津226-63
TEL:0120-89-0932
長野原草津口駅よりJR バス→草津温泉バスターミナル下車(約25分)。ホテルまで徒歩13分。ターミナル〜ホテル間の送迎をご希望の方は事前にお問い合わせください(駐車場あり)。
※宿泊費、各種オプションの詳細は下記よりご確認ください。

ホテル クアビオ
https://www.kurbio.com/index.html

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