【ジャーナルWEB公開記事】2025年夏号「海の向うから」第11回|フランス② パリ
食いしん坊を自認するフランス人舵を切る?
(15,000人を対象にしたアンケート調査から)
宇田川 喜久江
肉食文化の国、新たなる選択
2020年9月30日から11月8日にかけて、Franceagrimer(フランスアグリメール)という行政機関がIFOP(イフォップ:フランス世論研究所)に依頼し、15歳から70歳の国民15,000人を対象に大規模な食生活の現状に関する調査を実施しました。ヨーロッパ諸国の中でも肉食が盛んなフランスですが、近年肉を避けるという摂食・消費行動が目立ち、菜食主義という社会現象が認知度を高めています。そして奇しくもこの調査は、コロナ禍の中、2回目の外出制限期間中にオンラインを通して実施されました。
アンケート結果から、回答者は3つのタイプに分類されます。
① 何でも食べ、肉食の摂食制限をしない 85%
② 肉食を全くしない、あるいは制限している 2.2%(内訳:ビーガン 0.3% 摂取しないもの : 肉・魚介類・乳製品・卵・はちみつ/ ぺスカトアン 1.1% 肉は摂らないが魚介類は摂る/ベジタリアン 0.8% 乳製品は摂るが肉、魚介類は
摂らない)
③ フレキシタリアン 25%(臨機応変を表す形容詞から作られた造語)前者2カテゴリーの中間に位置する。状況によって摂食行動を変え、毎日肉を食べる人から月に数回のみに留まるタイプまで開きがある。
※パーセンテージの総数が100を上回るのは、①②のグループにフレキシタリアンが多少重なっているため

1989年パリ初の有機食材朝市がモンパルナス駅から徒歩数分のラスパイユ大通りで開かれる。現在も毎週日曜新鮮な食材が並ぶ
回答者全体の86% が肉好きを表明、63% が肉食は健康維持に必要と考え、63%が肉のある食卓の方が楽しいと感じてます。ところが「何でも自由に食べる」と主張したタイプ①の8% は実際の摂食行動において、時折肉食を避けておりフレキシタリアンにも分類されています。一方、回答者全体の85% が肉の摂取を少なくして行きたい、84% が食生活が健康に及ぼす影響に注意を払っているとしています。タイプ①③の肉食離れの要因として、価格の高騰、健康への配慮が挙げられ、タイプ②においては、健康、動物福祉、環境問題となっています。特に注目に値するのはタイプ①③でさえ、その大多数が「肉( 特に赤肉) の摂取は健康に悪影響を及ぼす」と認識しているという点です。
また、ビーガンを含む「肉食を制限している」グループは、食習慣の違いが原因の家族・友人間の関係悪化、外食をする際の困難さを訴え、ビーガンの間では2割以上が、レシピのアイデアを探す事に難しさを感じています。また、現実には肉食を避けた方が低コストになるのにも関わらず、一般的には費用がかかるという印象を持たれています。
肉食愛好家の特徴は非都市部住居者、高卒以下、男性肉食愛好家の特徴は非都市部住居者、高卒以下、男性、物事を深く考えない、動物福祉・環境問題に興味なし、肉への愛着。ところがこのグループの85% がフレキシタリアンになる事を望んでいます。
肉食を全くしない、あるいは制限しているグループ及びこのグループに近いフレキシタリアンの特徴は、女性、都市部住居者、高等教育終了者、高い社会階層となっていて、独身者の割合が過半数を占めます。平均より運動能力が高く、社会的・政治的態度を明白にしていて、次世代への影響を考慮した上で、自らの消費・摂食行動を決定しています。また、肉を好んで食べる年数が長くなるほど、肉への愛着度が上がり、肉食を拒否あるいは制限する食行動の年数が長くなるほど、さらにこの方向性を深めて行きたいとする傾向が確認されています。

ラスパイユの有機食材朝市。クリム吉見氏が手動機械でヨーロッパ初のポンセン(写真手前)を製造したのは1959年。現在小麦パン・クラッカーに代わる食材として大人気を博している。
若年層に特徴的な肉食への嫌悪感
若年層に肉食離れが顕著で、特に15歳から30歳代の回答者の43% が肉食に対する「嫌悪感」を明確に示しています。これは倫理的、哲学的観点からの拒否であり、63%が「殺す事を目的に動物を飼育することの残酷さ、無意味さ」を挙げています(うち32%が肉食拒否を選択した最重要理由)。また、学校給食で一番食べ残しが多いのは肉と魚。この若者たちが成人していく過程で、この傾向がどのように推移して行くか注目されています。
EGAlim法:ベジタリアン現象と新たな法律
ここで、2018年に施行されたEGAlim(エガリム)法について、少し触れたいと思います。この年は今回の大規模なアンケートに先立ち、予備調査が行われた年です。この新しい法制度が扱うのは食にまつわる多岐分野に及びますが、中でも画期的だったのは公共機関(学校、病院、官庁内の食堂等)において、最低週1回(広義の)ベジタリアンメニューを提供する事を義務化した事でした。

次の世代はどのような選択をするのだろうか
フレキシタリアンの存在意義と今後の動向
フレキシタリアンの動向が今後の食習慣の推移に大きな影響を与えると考えられています。今回のアンケートで明らかになったのは、肉を摂る・排除するという2元論ではなく、「制限して行く」という方向性でした。また回答者全体の過半数が、肉食を避ける傾向は「一過性の問題ではない」としています。コロナ禍の中、大変な数の感染者及び死亡者を出したフランス。高齢者始め、肥満している人、既に何等かの疾病を抱えている人から罹患していった事実が、これまでの食習慣の見直しを考える大きなきっかけになったのかも知れません。
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著者プロフィール
宇田川 喜久江/うだがわ きくえ
1962年千葉県生まれ。2002年に渡仏・在住。遡ること5年、勤めていた会社の直属の上司が過労死。人生を見直す機会を求め、フランスに1年の語学研修に発つが、この地で人生を再構築することを決意し今日に至る。2015年頃、食生活の変化による体調不良を覚え、日本人の友人からマクロビオティックの存在を知らされる。2016年からCIMOに関わり始める。16年間続けた介護職を去年引退。現在、CIMOとは活動を別にする料理教室を準備中。還暦を過ぎてから「陰と陽の再会」のような出逢いに遭遇。予想外にこの縁を育む道程はでこぼこ泥道であるのだが、お気に入りの長靴、時には裸足で、楽しみながら歩んで行こうと思っている。








