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【ジャーナルWEB公開記事】プロフェッショナル メニュー 第2回|古民家レストラン Haze(はぜ)

※本記事の内容は2023年5月31日現在のものです。

第2回|古民家レストラン Haze(はぜ)

取材・文/篠崎 由貴子

古民家レストラン「Haze」のオーナーシェフ 平田優さんは、20歳でフランス料理の世界に入り、26歳で渡仏。40歳の時に東京のマクロビオティックレストラン「クシガーデン」の総料理長に就任後、料理教室やレストラン経営を経て、現在は福岡県久留米市の古民家を生活の拠点としている。今回は移住を決めたきっかけ、こだわりのメニューや調理法、お客様への想いをお聞きした。

「発酵」に魅了され

日本の伝統食がベースのマクロビオティック料理にフランス料理の技術とエスプリを融合させた、平田シェフの織りなす創作メニューのファンは多い。世界各国から訪れるお客様を惹きつけるのは「Haze」でしか味わえない唯一無二の料理。そこにはシェフの「発酵」への強い想いがあった。

「長年東京で暮らしていたのですが、以前からより自分らしく過ごせる場所で、自分にしかできない料理を提供したいという想いがありました。自然豊かな土地で感性を研ぎ澄ませながら、その土地の食材を存分に活かせる場所をと考えていた時に思い描いていた古民家に出会い、2012年に久留米に移住しました。

私にとって古民家というのが何より重要でした。地元の食材と自家製の発酵食品をベースにしたマクロビオティック料理を提供するお店を始めたかったからです。

発酵食品を作るには、良い常在菌が必要不可欠なことはご存知の方も多いと思います。古民家の壁や梁に付いている菌は、味噌や甘酒、糠漬けなどを作るために最適です。代々続いている昔ながらの味噌蔵や酒蔵も、これらの菌を使って作られています。

腸内には善玉菌・悪玉菌・日和見菌が常在していて、日和見菌が善に傾くか悪に傾くかで環境が変わっていく。それを『空間』に例えてみます。空間(空気中)には発酵に適した良い菌とカビや腐敗を起こす菌が混在しています。発酵食品は、作り続けることによって環境が整い、良い菌が少しずつ増えて毎年おいしいく作れるようになります。最初の1~2年はカビてしまったり腐ってしまったりと失敗続きでしたけど(笑)」

東京在住の頃から食材のほとんどを九州から取り寄せていた平田シェフは、フードマイレージ(食料の輸送距離。輸送や輸送までの保管などに石油などのたくさんのエネルギーが使われ、多くの二酸化炭素や窒素酸化物が排出される)の観点からも、自らが移り住むことを考えていたそうだ。身土不二、地産地消をベースにして陰陽調和のとれた料理を提供したい。その想いを体現すべく行動に移し、50歳を過ぎてから久留米で車の免許を取得、仕入先の開拓や地域の方々との交流を精力的に行なった。

「こちらでは野菜や果物を生産している方が多いので、一年中色々な種類が手に入ります。珍しいものを好んで栽培している方もいるので、どんなメニューに仕立てよう?と考えるのも楽しいですね。無農薬の野菜は地元の農家さんから直接買い付けることがほとんどですが、時折、道の駅を訪ねて朝採れのものを見て回ることもあります。これらの食材と発酵食品をコラボレーションした料理は、その時期でしか味わえないものだと思います。」

本日のポタージュ

オーガニックグリンピースと玄米のポタージュ豆乳のフォーム添

 

素材のおいしさを最大限に引き出す

「Haze」のランチはすべてコース仕立て。どのコースにも共通する「お野菜のポタージュ」には豆乳を使用。旬の野菜の風味を損なわない優しい味わいが特徴だ。「菜園サラダ」は玄米のお粥に米麹を混ぜて適温にし、8時間発酵させた甘酸っぱい自家製玄米甘酒ドレッシングが素材の味を引き立てる。植物由来のドレッシングなので、野菜とも果物とも相性が良い。

本日のオードブル

本日のオードブル 久留米の野菜と自家製豆乳ヨーグルトクリーム

 

「フレンチでいうと、旨味を出すフォン(出汁)はすべて動物性由来のもので作られていて、それらをベースにスープやソースを作る、いわば『足し算』を積み重ねる調理法です。こういった工程を経て旨味や深い味わいを出すのですが、それを発酵のチカラで引き出すことはできないか、と考えて積極的に発酵食品を取り入れるようになりました。

今日の『本日のオードブル』は、自家製豆乳ヨーグルトクリームと白バルサミコとオリーブオイルドレッシングの2種を久留米の野菜と合わせてお出ししました。どちらに合うかを考えて、野菜は生・茹でる・焼く・ローストするなど、それぞれ調理法を変えているので、見た目も食感の変化も口の中に広がる味わいも楽しんでいただける一品です。

豆乳ヨーグルトは、玄米を煮沸したビンに入れて水を加えて発酵させた乳酸菌を使って仕込んでいます。乳酸菌を作るというと馴染みがない方も多いと思うのですが、糠床が糠によって乳酸発酵するのと同じように、玄米の外皮の周りにある菌を利用して作ることができるんですよ。」

スパイシー玄米ベジカレー

スパイシー玄米ベジカレー

 

発酵食品は、1日でできるものから数年かかるものまで様々だ。平田シェフは食材やメニューとの相性を考えて巧みに発酵の技を取り入れる。また、野菜がメインの料理は時間をかければ良いというものではないそうだ。食材のコンディションを見て、風味や食感などが最大限に味わえるように手早く仕上げることも多い。

「『ベジカレー』のベースは玉ねぎで、隠し味に八丁味噌や醤油を加えています。玄米ごはんと発酵調味料はとても相性が良いので。スパイスは毎回自分で調合しています。このあたりは柿が名産なので、旬の時期に熟したものを冷凍し、ピューレ状にしたものを加えて辛さの中に優しい甘さを感じる仕上がりにしています。」

パスタに合わせる自家製トマトソースやジェノベーゼソースに使われる食材もすべてオーガニック。他にもキノコとあおさのシンプルなパスタなど、四季を感じならが味わうことができると好評だ。古代小麦のパスタは5000年以上古代より栽培され、人的改良をされていないファッロ小麦やデュラム小麦の先祖と言われるサラゴッラ小麦を使用するなど、マクロビオティックの観点からも食材を厳選している様子が伺える。

豆腐と大豆のテリーヌ ベジミートのボロネーゼソース

 

「『Haze』にはヴィーガンの方も多く来店されるのですが、中には栄養素が不足して体調を崩す人がいらっしゃいます。野菜や果物を主にする食生活をしていると、どうしても三大栄養素(タンパク質・炭水化物・脂質)のバランスが偏ってしまうので、コース全体の栄養素を考えてタンパク質が摂れる豆類・豆腐を使ったメインも提供しています。

醤油、味噌、日本酒など植物由来の発酵食品はどれも、日本の国菌にもなっている『麹菌』を用いて作られていて、それらが発酵することによって深い味わいが生まれます。尚且つ、発酵というセオリーを踏むことで、腸内環境を整えて自身の免疫力を上げることができる。これは、日本ならではのものではないかと思っています。」

スペシャルディナーコースはオードブル・ポタージュ・2種のアミューズの他、1~2口で味わえるパスタ・メインディッシュ・〆のごはんにデザートの盛り合わせと盛りだくさんだ。

3種のデザート

3種のデザート

 

「デザートには旬の果物をふんだんに使っています。秋になると出回る栗を使ったものも好評です。甘味には甘酒とメープルシロップを使うことが多いですね。穀物由来の甘酒は比較的陽性で、植物由来のメープルシロップは陰性なので、陰陽のバランスを考えて2種類使い、中庸に仕上げています。一品の料理としてもコースとしても、マクロビオティックの考え方を取り入れることは忘れません。そこにフレンチの技法と発酵食品をコラボレーションさせる。笑顔で食事を楽しんでいるお客様の姿を想像しながら料理を作っていると、こちらも元気になります。」

〆の玄米ご飯

〆の玄米ご飯

 

お店の場所柄、久留米の風景やお料理をゆったりとした時間の中で味わいに来られるお客様が多い。ディナーは男女で来店されるお客様のために、心地よくお腹いっぱいになれる内容を心がけているそうだ。中でもこだわっているのが、〆の玄米ごはん。そこには平田シフの想いがあった。

自家製発酵食品(糠漬け)

自家製発酵食品(糠漬け)

 

「フレンチが基本なのでオープン当初はパンも提供していたのですが、グルテンフリーの要望が増えたこと、何よりマクロビオティックがベースなので、〆にはやはり基本食を食べて欲しいという想いから玄米ごはんをお出ししています。玄米は近隣のうきは市の無肥料・無農薬栽培のもの、味噌や梅干しは自家製です。自然なものからできた素朴な味わい…素朴ながらも奥深く広がる甘さや旨味。カラダもさることならが、ココロが落ち着くと海外からのお客様にも喜んでいただいています。」

独自の試み

食材の調達にメニュー考案、仕込みなどは定休日に行なっているのだろうと想像していたが、休みの日は料理教室を開催しているため、そちらの準備にかかりきりになることも多いそうだ。そんな平田シェフを下支えしているのは、常駐スタッフ1名と研修生だという。研修とは、どのようなものなのだろうか。

「無償の代わりに菜食レストランの運営・接客・調理補助など、自然に則した生活環境の中で自身のスキルアップが体験できます。発酵を肌で感じることができる空間で生活しながら、料理の勉強ができるといった感じですね。古民家内に住居スペースを提供しているので、研修費などの費用も発生しません。あまり人件費をかけられないので考えた制度なのですが、お店としてもスタッフが確保できるので、双方にとってプラスになっていると思います。」

研修期間は1ヶ月を基本に、相談の上、短期・長期も受け入れている。中にはフランス、イタリア、イギリス、ロシアから学びに来た人もいるそうだ。

「仕込みの中で料理を覚えていく感じですね。ある程度マクロビオティックを学んで来られる方が多いので、積極的な人はどんどん質問してきますし、こちらもできるだけ応えています。

海外からの研修生は、マクロビオティックもさることながら、日本の発酵文化に興味を持っている方が多いので、日本語を勉強している場合がほとんどです。目的を持って、自身で調べてHP を通して問い合わせをしてくる熱意はすごいと思います。日本の伝統や食が世界から注目されていると思うとこちらも嬉しいですし、私にできることは精一杯伝えたいと思っています。」

スタッフや研修生とのやりとりは平田シェフのもう一つのやり甲斐となっているようだ。お店のInstagram など、SNSの発信を研修生が行うこともあるとか。研修が終了しても繋がりは続いている。

「マクロビオティック全体に言えることですが、ビジネスとして儲かる(儲ける)というものではないのかもしれません。私の場合、自分が何をやりたいかと、自身の健康を優先しました。

食べたいものが簡単に手に入る時代の中で、自分のカラダにとって本当に必要なものを食べている人はどのくらいいるでしょうか。これだけ様々な病気が増えているということは、何か原因があると思うのです。カラダが喜ぶものを食べているか、ココロはどうか。

『Haze』の料理を目で見て、味わって、その中で自身の健康に意識が向いたり、ご家族に作る料理への気づきが生まれてくれたら嬉しいです。」

自然の中で 自然な流れで

理想的な古民家と出会い、地元の食材を、豊富な知識、経験、巧みな技術により融合させる平田シェフに、今の想いをお聞きした。

店内

店内

 

「健康で過ごすためには生活を整え、免疫力を上げていくことが何より大切です。自分で考え、行動する判断力も、そうした中から生まれ、高まっていくものだと思うからです。

久留米に来てから色々な物事に執着せず、色々なことを大きく捉えることができるようになりました。考えるより感じる、ですね。小鳥のさえずりや満天の星空、眩しいほどの満月…本来の自然の中での暮らし、それらを料理に活かす。それが何より幸せです。」

土地の食材に触れ、四季を感じ、菌を育み、料理を作り、お客様をもてなす。平田シェフは何より「空間」を大切にしているように感じた。ここでしか体験できないスペシャリティな「楽園」は、今後どのように進化していくのだろうか。

※本記事の内容は2023年5月31日現在のものです。

INFOMATION

福岡県久留米市山本町豊田1849-1
TEL:0942-27-6750
営業時間:
ランチ  11:30〜14:30( L.O. 14:00)
ディナー 18:00〜21:00( L.O. 20:00)
定休日:月・火曜日(祭日の場合は営業)
※メニューの詳細や価格はHPをご確認ください。
※定休日以外にお休みをいただくことがあります。ご来店の際はお電話、カレンダーでご確認いただきますようお願いいたします。

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平田優/ひらた あつし
1961年東京生まれ。東京のフランス料理店で20年に渡り料理長を務めた後、マクロビオティックと出会い、故・久司道夫氏認定のマクロビオティックレストラン「クシ・ガーデン」総料理長に就任。パトリシオ・ガルシア・デ・パレデス氏よりマクロビオティックの基礎を習い、日々研究を重ね、日本の伝統食がベースのマクロビオティック料理にフランス料理の技術とエスプリを融合させた「シンプルモダンマクロビオティック」を創作。2012年に福岡県久留米市に拠点を移し、「古民家レストランHaze(はぜ)」をオープン。料理教室の運営なども積極的に行なっている。

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