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【ジャーナルWEB公開記事】プロフェッショナル メニュー 第3回|yoridocoro(よりどころ)

yoridocoro(よりどころ)

※本記事の内容は2023年9月23日現在のものです。

第3回|yoridocoro(よりどころ)

取材・文/篠崎 由貴子

東京・世田谷で完全予約制の「yoridocoro」を運営する寄國揚こさんは、1日1組限定にこだわり、心からリラックスできて体が喜ぶマクロビオティック料理を提供している。小さな隠れ家のような空間でいただく料理は味わい深く、どこか懐かしさを感じるものばかり。そこには様々な経験からたどり着いた想いが込められていた。

料理を通して揚こさんが伝えたい想いとは、どんなものなのだろうか。

季節感あふれる家族の食卓が出発点

東京で生まれ育った揚こさんは、子どもの頃から母の手料理が大好きだった。その時々に、手に入るもので工夫して作られた料理を口にするたび、幸せな気持ちになったという。

「田舎生まれだった母は、季節を感じる食卓を心がけてくれていたように思います。3月にはちらし寿司、4月はよもぎ団子、秋には栗ご飯といった感じです。特別凝った料理ではありませんでしたが、豊かな食卓でした。そんな幼い頃からの食卓の思い出が、私の原点になっているのかもしれません。

社会人になって、以前から興味があった食について学びたいと思い、中華料理、懐石料理など様々な料理教室に通いました。自然食の教室で料理を食べたときに『シンプルな調理法なのに、なぜこんなにおいしくなるの!?』と感動したことがきっかけとなり、マクロビオティック クッキングスクール リマに通ってインストラクターの資格を取得したのです。」

仕事を持っていると「食」が疎かになりがちになる。揚こさんは、好きなことを100%楽しむためにも日頃の食生活を整えることが良いパフォーマンスに繋がると思い、「いつか食で人を幸せにする仕事をしていきたい」と考えるようになったそうだ。

手仕込みのらっきょう漬け

手仕込みのらっきょう漬け

 

「美容師だった父の影響があったのだと思います。今では珍しいことではありませんが、昭和一桁生まれの父の年代で美容師を目指す男性はほとんどいなかったのです。父が自分の店を構えたように、私も好きな食の分野で生きていきたいと思うようになりました。時間は有限。やりたいことがあるならチャレンジしようと思ったのは、父が亡くなった翌年のことです。」

揚こさんは長い会社員時代にピリオドを打ち、マクロビオティックの知恵を活かした料理家として独立を果たした。空腹を満たすだけではなく、心も体も満たされる料理を提供したい。そんな想いから「yoridocoro」をオープンすることを決めたのだ。

 

マクロビオティックの知恵を活かす

献立はその時々によって変わるが、いずれも旬の野菜をメインにし、穀物をたっぷり使って自然と体が整うよう考えられている。もちろん動物性食品や白砂糖は使わない。基本的に小麦粉製品も用いないよう配慮されている。

「フードマイレージの観点から、近所の農家さんが育てた新鮮な野菜を中心に献立を考えています。前菜を2回に分けてお出しし、煮物、ごはんや汁物、お菓子といった懐石風のコース仕立てにすることが多いですね。季節や気候を考えて調理するのですが、基本は『煮る・焼く・蒸す・漬ける』ものが多く、揚げものなど油が酸化してしまう料理は控えるようにしています。

よく作るのは『ごぼうの養老煮』や『小豆かぼちゃ』などの伝統的なマクロビオティック料理です。養老煮はごぼうと梅干しだけで作るシンプルなものですが、2日間かけてじっくりと火を入れることで驚くほど甘く仕上がります。状態を見極めて火加減を調整したり、一旦落ち着かせたりと手間がかかりますが、お客様に奥深い味わいを感じていただけた時は何より嬉しいです。」

夏になると食べにくく感じる玄米は分搗き米にしたり、乾物を控えめにするなど、陰陽バランスに気を配りながら中庸を目指すといった心配りも欠かせないという。「小豆かぼちゃ」は揚こさん自身が美味しいと感じるかぼちゃが手に入った時にしか作らないスペシャリティだ。

 

料理を引き立てる手仕事

手づくりしている調味料や発酵食品数は、数十種類にも及ぶ。梅酢や柿酢、柚子胡椒、豆板醤やコチュジャン、梅干しやらっきょう漬け、金木犀を使ったシロップなど、用途によって使い分けているそうだ。

「福井に住む姉が麹を作っているので、その麹を使って塩麹や醤油麹を作っています。とてもまろやかな味わいなので、どんな料理とも相性が良いんですよ。味噌づくりも定番ですね。豆板醤は空豆が旬の5月頃に仕込んでいます。青柚子のシーズンに行なう柚子胡椒づくりで余った青唐辛子は、麹と醤油を混ぜて三升漬けにするなど、一年を通して色々な調味料を作っています。」

熟した柿のヘタを取り、ビンに入れて発酵・熟成させた柿酢は爽やかな酸味と甘味が特徴。秋に出回る野菜をふんだんに使ったサラダや和えものとの相性が良いそうだ。中でも「こめ飴」は手間暇のかかる調味料だという。

「もち米をお粥のような状態になるまで炊いて、麦芽粉を混ぜて保温した後、絞り汁をじっくり煮詰めて作ります。粘度が高いので、お菓子ではグラノーラなどに適していますね。メープルシロップに比べてより自然な、優しい甘さに仕上がります。栗の甘露煮にも最適ですよ。」

これらを仕込むタイミングで講座を開くこともあるとか。土鍋で炊いた玄米など、マクロビオティックランチも併せて提供している。

「これらの調味料を取り入れながら、味覚の変化を楽しんでいただけるよう心がけています。『五味』の甘い・酸っぱい・辛い・苦い・鹹(塩辛い)が感じられるようにしたり、食材の持つ旨味を最大限に引き出して調理するなどですね。視覚から感じる楽しさも忘れないよう、彩りを工夫することも欠かさないようにしています。お客様の中にはマクロビオティック料理を食べ慣れていない人もいるので、予約の際にお話を聞いてメニューを考えることもありますよ。」

「yoridocoro」のコンセプトは1日1組の完全予約制。基本4名からで、最大6名までとしているのは、大切な人と大切な時間を過ごして欲しいという想いから。テーブルには土瓶で沸かした波動の高い健康ハーブ茶が用意され、料理や会話を楽しみながら好きなだけ飲むことができるのも嬉しい配慮だ。

お客様との有り難いご縁

ほとんどのお客様はHP やSNS を通して予約をされるそうだ。友人や知人のリピーターも多いとか。中には思いがけないご縁もあったそうだ。

「以前、本誌が月刊で発行されていたときにスイーツのページを1年間担当したのですが、私の記事を読んだ方から『お店に伺いたい』とお問い合わせがあったのです。それも何件も。中には『私の作る料理が楽しみ』と言って数年間通い続けてくださった、マクロビオティックを実践している方もいらっしゃいました。流行りのお店に足を運んでも、自分の体にしっくりくる料理になかなか出会えないといったお話を聞いて色々考えさせられましたね。これは私の考えですが、見栄えなどを気にするあまり、バランスの偏ったメニュー構成になってしまっている場合があるように思います。食欲をそそる彩りも大切ですが、コンセプトがズレてしまっては元も子もないので…。」

お客様とのふれあいを通し、「チャレンジして良かった。続けてきて良かった」と思うことも少なくないそうだ。様々な声を取り入れ、リクエストに応える形でジャムやグルテンフリースイーツなどの販売にも積極的に取り組んでいる。時には野草を取り入れたもの、おからや米糠を使ったものなど、皆が楽しめるお菓子づくりを心がけているそうだ。

味噌づくりワークショップ

味噌づくりワークショップ

 

元気をもらえる給食づくり

取り組みの一環として、週に2回、マクロビオティックを取り入れた給食づくりのお手伝いもしているそうだ。給食は保育園のスタッフさんたちにも好評で、大人が食べられるものを数品追加して作ることもあるとか。

「地域との交流も兼ねて引き受けています。おいしそうに食べている様子を見ていると、自然と元気が出るんですよ。子どもたちが食べやすいように五分搗きのごはんにしたり、味つけや彩りを工夫して、毎回のようにお味噌汁を付けるようにしています。

子どもは親御さんの食環境の影響を多分に受けているので、何でも食べる子もいれば好き嫌いの多い子など様々ですね。どの子も、何もかかっていないコロッケよりもソースがかかっているほうが好きみたいです。意外なのですが、ひじきなどもパクパク食べてくれます。ハッキリとした味の濃いものが食べやすいのかもしれませんね。今のところ、普段の食事にマクロビオティックを取り入れてもらうまで
には至っていませんが、給食が決め手となって園に通われているお子さんもいるようなので、何かしらのご縁ができたらと思っています。」

どのような料理が求められているのかなど、お店とはまた違った「生の声」を聞く機会は、揚こさんにとってなくてはならないものとなっているようだ。

保育園の給食づくりの他、ケータリングやお弁当販売を行なうことも

保育園の給食づくりの他、ケータリングやお弁当販売を行なうことも

感性を養う心地よい「熟成」の時

揚こさんの目指す「プロフェッショナル」とは、どのようなものなのだろうか。

「私は何より『家庭の味』を大切に考えています。食材の美味しさを引き出す方法も、特長を活かす調理の仕方も無限にありますが、理屈ばかりでは心のこもった料理には仕上がりません。想像力を高め、判断力を身につけてこそ成せるものなのではないでしょうか。感性を豊かにするといった意味では、染めものや織りものなどの趣味が役立っているように感じています。調味料や発酵食品づくりのように、ゆっくりと熟成していくような心地良い時間は、私にとってかけがえのないものです。

マクロビオティックの知恵を使って、季節を感じながら感謝をして料理を作る。そうしているうち、何より自分が楽しくなり、喜びの気持ちでいっぱいになります。」

揚こさんは、長く愛されてきた伝統食を大切にしながら、ご自身のエッセンスを散りばめた料理づくりを心がけているように感じた。

「私の料理は決して華美なものではありませんが、自然の恵みを活かし、丁寧に仕込んだ数々の調味料や発酵食品とのコラボレーションが唯一無二なものと感じていただけたら嬉しいですね。こうして食べものを美味しくいただけることに感謝しつつ、時々でもご自分をいたわる料理を通して体の声を聴く機会をつくっていただけたら心から嬉しく思います。」

料理を通して「心地良い生き方の道標になれたらいいな」と話す揚こさんの笑顔が輝いていた。「yoridocoro」はこれからもゆっくりと熟成の時を重ねてゆく。

店内で販売している手づくり食品

店内で販売している手づくり食品

※本記事の内容は2023年9月23日現在のものです。

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INFOMATION

東京都世田谷区宮坂
営業日:火・水・金・土・日 定休日:月・木
営業時間:11:30〜13:30までの入店で要相談(完全予約制)
アクセス:小田急線「経堂駅」より徒歩3分
※定休日以外にお休みをいただくことがあります。場所の詳細など、詳しくは下記よりお問い合わせください。
※お車の方は近隣のパーキングをご利用ください。

yoridocoro(よりどころ)
https://yokoyorikuni.com/

寄國揚こ/よりくに ようこ
マクロビオティックキッチンスペース「yoridocoro」店主。マクロビオティック食のランチ会主催のほか、グルテンフリースイーツの販売、少人数制の料理教室や食にまつわる学びの講座、レシピ提供、保育園で子どもたちのマクロビオティック給食を作る出張料理人などで食と健康に関わる活動をしている。

寄國揚こ

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