【ジャーナルWEB公開記事】プロフェッショナル メニュー 第1回|Fete Le marche (フェット ル マルシェ)
※本記事の内容は2023年3月31日現在のものです。5月中のリニューアルの際に内容は変わりますので、HP・Instagramをご確認ください。
第1回|Fete Le marche (フェット ル マルシェ)
取材・文/篠崎 由貴子
自分の健康を気遣い、労りたいという思いは誰もが少なからず持っている。ニーズに応えたヘルシーな料理を提供するレストランやカフェは少なくないが、マクロビオティックの考えを取り入れているお店はどのくらいあるだろうか。
小田急線 向ヶ丘遊園駅から徒歩5分にある「フェット ルマルシェ」では、それらの知恵を活かした様々なメニューを提供している。栄養学を学び、メニュー開発や料理教室プロデュースなどの様々な経験を経営に活かすオーナーのKUMIさんに、メニュー開発における工夫、プロならではの採算面のアイデア、お客様との繋がり、マクロビオティックへの想いをお聞きした。
一番人気「ベジランチ」
「フェット ル マルシェ」では、ベジタリアンの方もノンベジの方も楽しめる彩り豊かなランチプレートの他、グルテンフリーのスイーツ、麹入りのスペシャルドリンク、米粉パンなど、多彩なメニューを提供している。
中でも人気なのが「今週のベジランチ」。玄米ごはん、主菜、副菜、デザートが色鮮やかに盛り付けられたワンプレートに、塩麹と椎茸のスープが付く。毎日50食程度用意するが、ほぼ完売という主力メニューだ。無農薬栽培の発芽玄米ごはんも人気だという。
「安心・安全でおいしいお米を、お腹いっぱい食べて欲しいという想いでオープンしました。健康に過ごすための源となるお米の栄養を、すべていただいて欲しい。カラダが整うメニューをと考えた時、自分の学んできたマクロビオティックの知恵を取り入れようと思いました。」
御先祖様から受け継がれた古来のお米作りと、安全でおいしいお米を守りたいという農家さんに賛同し、熊本県南阿蘇の大自然に囲まれた環境で育った完全無農薬栽培米を使用。決して安くはないが、他のものに変えようと思ったことは一度もないそうだ。
主菜は毎週変わる。車麩の角煮、ベジハンバーグ、ベジ油淋鶏など、和・洋・中のバランスも良く、バラエティに富んでいるのが印象的だ。旬の野菜をメインに構成された副菜は種類が多い。季節に応じて味付けや野菜の組み合わせを変えるなどの工夫も随所に見られる。
「今まで培ってきたノウハウが、レシピ開発やメニュー構成に活かせると考えました。『今週は何かな?』と楽しみにしてもらえるようなワンプレートを心がけています。構成を考えて食材の調達を始めるのは一週間前からです。長崎から取り寄せている野菜の他、葉物などの足りない野菜は近所のお店を回り、できるだけ新鮮なものを購入しています。有機・無農薬栽培のものを使いたい気持ちはありますが、絶対ではありません。手に入りづらい高価な野菜を使えば、価格に反映せざるを得なくなるからです。」
週の始めの仕込みは朝6時から。KUMI さんが自ら調理をしながらスタッフにコツやポイントを伝え、開店までに全メニューの仕込みを終わらせる。同じものが2週続かないなどの配慮もさることながら、お客様から要望のあった副菜を取り入れるなどの心遣いも忘れない。
ボリューム満点で飽きがこないよう配慮されたランチは男性客からの評判も良く、健康志向の高いサラリーマンや大学生、スポーツ関係者などのお一人様の来店も増えている。土日祝はベジタリアンカレーやグルテンフリーパスタなどの注文も多い。ベジ以外のメニューも各種取り揃えているので、お客様自身がその日の気分や体調を考えて料理を選ぶことができるのも魅力だ。
ベジ・ノンベジが選べる「からあげランチ」
「からあげランチ」には、サラダの他に「ベジランチ」で提供している副菜が2種類付く。こちらも彩り豊かなワンプレートで、栄養バランスの考えられた一品に仕上がっている。
「どちらかを選べたら喜ばれるのではないか?と考えました。からあげって、年代問わず好きな方が多いですよね。中にはシェアして食べ比べをされるカップルやご家族連れもいらっしゃいます。テイクアウトされる方も多いのですが、「ベジからあげ」は漬け込みや調味料の配合など、仕込みに時間がかかるので一日20食ほどの提供です。鶏のからあげの何倍も手間がかかりますが、同じ価格に設定にしています。そうでないと、注文しにくいですよね。都心のお店だったら『ベジだから高いのは当たり前』が通用するかもしれませんが、地域性やお店のコンセプトとは合いません。」
原材料の価格が高騰している。現在、ほぼ全ての食材や調味料が値上がりする中、メインランチの価格をあえて下げる決断をしたそうだ。そこにはどんな想いがあるのだろうか。
食べて欲しい。その一心です。もちろん、利益が出なくてはお店は成り立ちません。経営をしていくにあたり、数字は最も大切なものです。クオリティを下げずにコストパフォーマンスを維持するにはどうしたらいいか、スタッフと何度も話し合いました。
私たちの出した答えは『手間暇を惜しまない』でした。今まで以上に食材と向き合い、野菜の切り方、炒め方など、丁寧に調理をする大切さを皆で共有しました。マクロビオティックの考え方は経営面でも大いに役立っていますね。『一物全体』の考えから、生ゴミがほぼ出ないのがお店の自慢です(笑)。
早朝から遅い時間までの仕事ですが、辛いと感じたことはありません。そういう気持ちはいずれ、接客や料理に現れますから。おかげさまで、私たちの想いに共感し、リピートしてくださるお客様が増えました。」
グルテンフリーのスイーツと米粉食パン
「フェット ル マルシェ」のスイーツは種類豊富だ。ドーナツ、マフィン、カヌレ、クッキー、グラノーラ、ケーキなど、すべてがグルテンフリーという。なぜグルテンフリーにこだわっているのだろうか。
「スイーツって、ココロを癒してくれますよね。なくてもいいけど、あったら嬉しい。多少のアレルギーはあるけれど、植物由来のものなら食べられるという方が多いので、数ある商品の中からその日の天気や季節を考慮し、数種類を販売しています。定番のものから紅茶を使ったもの、野菜や果物を使ったものなど、飽きのこない工夫も欠かさないようにしています。お気に入りのものを見つける楽しさって、ワクワクしますよね。大量に注文してくださるお客様も多いので、ご要望にお応えできるよう、急速冷凍機で冷凍保存している商品もありますし、地方発送も承っています。」
小麦、卵、乳、白砂糖不使用のやさしい甘さもさることながら、お客様のニーズに配慮した商品ラインナップと販売方法が好評だという。一方、お店でいただけるバナナ、オレンジ、ストロベリーを使用したパフェにも人気の秘密がありそうだ。
「甘いものを欲したとき、何も気にせず食べたい…そんな方にはビーガン仕様もご用意しています。甘味には自家製甘酒や甜菜糖を、アイスやクリームには豆乳を、クッキーには米粉を使用し、果物との相性やバランスを熟考したオリジナルな一品です。からあげランチ同様、その日の気分で仕様が選べて嬉しい!と言っていただけるのが嬉しいです。」
スイーツの他、当店で一つひとつ丁寧に焼き上げられた米粉食パンのリピーターも多いそうだ。中には予約をして焼きたてを持ち帰るご家族も。
「グルテンフリーでおいしいパンって、なかなかないですよね。色んな米粉パンを焼いてきましたが、行きついたのは『シンプル』。国産米粉、有機玄米粉の他、相性の良い米麹も加えています。材料のほとんどがお米なので、和風のお惣菜との相性も良いのが特徴です。それほど日持ちはしませんが、保存料不使用なことがかえって好評いただいているようです。米粉なのに重くなく、モチモチなのに軽い口当たりの食パンを、たくさんの方に味わっていただきたい想いから冷凍での発送もスイーツ同様行なっています。」
お客様とともに
オープン当初、お弁当の販売はしていなかったそうだ。長年飲食業に携わっていたKUMIさんには、店舗とのダブルスタンバイの難しさがわかっていからだ。それなのになぜ、販売を始めたのだろうか。
「コロナウイルスが蔓延した2020年、お店を休業するか悩んだ時期がありました。世界中が混乱し、先の見えない状況でしたから。私は休業しない選択をしました。今こそ『食』が大切。一人でも多くの人に、おいしいお米と料理を
提供したいという想いがより一層強くなったからです。そんな時、お客様から『お弁当を販売して欲しい』と頼まれました。最初はベジランチだけと思っていたのですが、思いのほか反響があり、一つまた一つとメニューが増えていきました。信念は大切ですが、同じくらい変わることも大切なんだと思った経験でしたね。」
当時、手が空いた時間を使って味噌玉を作り、お弁当を購入された方へ無料サービスを行った時期もあったそうだ。気持ちが不安定な時こそ、温かいお味噌汁を飲んでココロもカラダも温まって欲しい。そんな想いがお客様に届いたのだろう、家族の分も、友人の分もと注文が増えたそうだ。今ではほとんどのメニューがテイクアウトOK。フードデリバリーサービスを利用した注文も多い。
現在、ベジランチの詳細や焼きあがったスイーツ、新メニューなどの情報発信にはSNS を活用している。驚いたのは、オープンと同時に導入したアプリの活用だ。今では3,000人を超えるユーザーがいるという。メニュー紹介のツールとしてだけではなく、来店ポイントが貯まるとランチやスイーツを提供するといったサービスも魅力の一つ。ここでも経営を学んだ経験が存分に発揮されている。
「過度な宣伝はしないよう心がけています。自分に余裕がなくなると判断力が鈍り、丁寧な仕事ができなくなるからです。最近は、来店されたお客様自身が料理写真をSNSにシェアしてくれることが多くなりました。お客様がお客様を、自然な形で呼んでくださるような横の繋がりができている感じです。とっても嬉しいですね。」
ここのところ、遠方から足を運んでくださるお客様が増えているそうだ。SNSを通してお店のコンセプトを知り、「食」を通したコミュニケーションを求めての来店かもしれない。マクロビオティックの考えを基軸としたKUMIさんの想いは、お客様やスタッフ、関わる人たち皆へ着実に伝わっているようだ。また、様々な経営努力とアイデアが、たくさんのお客様のココロを掴んでいるように感じた。
「ビジネスは人と人との繋がりだと思っています。『料理がおいしいし、雰囲気も良いから、また行こう』と足を運んでもらえるお店であり続けたいですね。私は、自分が『家族』に食べて欲しいと思う料理を提供していきたいです。それはなぜか。お客様も『家族』だからです。いつまでも元気で、笑顔でいて欲しい。ココロの声やカラダからのサインを逃さず、心身を整えていくためにも、マクロビオティックの考えを存分に取り入れていこうと思っています。」
現在、メニュー再構成のため休業期間に入っているが、5月中にリニューアルオープン予定。6月にはJR赤羽駅近くの東洋大学 赤羽キャンパス内に2号店をオープンする。スポーツに力を入れている大学からの、学生の健康を考えてのオファーが何より嬉しかったそうだ。時代の流れの中で、常に変化し続ける「フェット ル マルシェ」の次なるチャレンジに期待したい。
※本記事の内容は2023年3月31日現在のものです。
INFOMATION
神奈川県川崎市多摩区登戸1831-1
TEL:044-299-9833
営業時間: 店内 火曜日~日曜日 11:30~17:00( L.O 16:00)
テイクアウト 火曜日~日曜日 11:30~18:00( L.O 17:00)
定休日:月曜日・第2 第4火曜日
※お弁当の受け取りは18:00まで可能です。
※メニューの価格やオープンの詳細はHP・Instagramをご確認ください。
Fete Le marche(フェット ル マルシェ)
https://www.fetele-marche.com/
米food研究所
https://www.komefood.com/
KUMI
長崎県生まれ。「fete le marche」オーナー。国際製菓専門学校卒業。フードプロ料理教室 プロデュース科卒業。マクロビオティック クッキングスクール リマインストラクターコース修了。体調不良から食の大事さを認識し始めたこと、アレルギーを持つ子どもの母親としての経験を生かし、皆様のお役に立ちたいと思うようになったことがきっかけとなり、様々な資格を取得(製菓衛生士/薬膳食育士/フードコーディネーター/米粉マイスターインストラクター/グルテンフリー食学アドバイザー/食育インストラクター/麹マイスター/調味料アドバイザーなど)。日本の食にかかせない「米」を中心に、植物をより積極的に摂っていくというプラントベースフードの考えを取り入れたスイーツ、パン、和菓子、料理などを総合的に学べる教室「 米food研究所」も展開している。