1. HOME
  2. ブログ
  3. 【ジャーナルWEB公開記事】2024年秋号「提言」橋本 ちあき

【ジャーナルWEB公開記事】2024年秋号「提言」橋本 ちあき

Adobe Stock

橋本ちあき

暮らしは文化です

私は今、京都の田舎の里山で、いつも空模様と田畑模様と家族模様に合わせて暮らしています。約50年間マクロビオティックライフを続けています。若い頃東京から福島の山奥に移住し、2011年からは現在の場所に移りました。ここでは近くに住む娘達の家族と協力しながら暮らしているので孫たちの声が賑やかに響く毎日です。

マクロビオティックを始めた方から、子どもや家族に食事のことを理解してもらえない悩み相談を受けることがよくあります。ケースによりますが、まず家族や食が置かれている状況の社会的歴史的背景について理解しておくと助けになると思います。大家族で暮らし、家族皆が一緒に同じものを食すのが当たり前だった時代から、経済成長のもとで核家族になり、食べることを個人で選択できるようになりました。自由で豊かになったとも言えるのですが、現在の食事は、個人が単に食物を摂る行為だけの意味になっている気がします。家族の繋がりが希薄になり、食卓を囲んで心をひとつにするという時間も減り、作法や感謝などを子ども達に伝える機会も減ったという訳です。時代の変遷は戻せませんが、このような背景を知っておくと悩みが解決し易いかもしれません。

私は今こそ、各々の家庭で食べることの意味を再構築する必要があるだろうと思います。食べることは一生を通して最も大切ないのちの営みです。心身の細胞を作る行為です。その視点から家族とどういう時間を過ごしたいのか、子ども達の心身に何を育みたいのかをよく考えながら、何をどう選ぶかを含めて、家庭の食スタイルをつくっていくといいと思います。さらに食事はお腹を満たすだけではなく、心も一緒に満たすものであってほしいと思います。それには家族それぞれの心に寄り添っていくことが大切になります。ところが、科学技術でつくり上げた文明社会の中で、リアルに人と関わることも減り、心がどこにあるのか・心の表現がどんなものか、解りにくくなっているように思います。ですので私たち自身が、心を感じる能力を回復することが必要だろうと思います。誰かの心に寄り添うには、自身の心が満たされてこそ可能になっていくのですから。

ここで誤解のないように言っておきますが、女性や母親が昔のように家庭を守り料理・子育てを担いましょうと言っているのではありません。現代は子育ても家族も互いに支え合うことが必要になっています、形も多様になっています。だからこそ、老若男女皆が協力して慈愛を育てる環境が必要だと思います。「食べること」と「心との対話」、この二つが共に連動して働いてこそ、ヒトの成長も関係もうまく廻っていくのだろうと思います。

マクロビオティックを実践しながら、心を育てていくことは簡単です。人と違うことをする時に生まれる摩擦、抵抗など様々な波があります。例えば「付き合いにくい」とか「人と同じものを食べられなくてかわいそう」など他者からの些細な言葉もそうです。それに動揺したり悩んだらその時がチャンスです。自分の心がどう受け止めているかをよく観察し、本来はどうありたいのかをしっかり確認します。その時にできれば、相手の立場からの気持ちも想像しながら考えていくと、ストレスにならないような意外に簡単にちょうどいい解決策が浮かんでくるようになると思います。

自分で体験したことは知識ではなく知恵となります。その喜びの上に次の問題もクリアし知恵が増えて自信ができていきます。誰にとっても自信と自己肯定は大切です。そして大人が醸すその安心の中でこそ、子ども達も自己肯定力をつけていきますから、自分が学んだ心の処し方を家族や子ども達にも伝えると良いと思います。それが大切な教育になります。子どもの頃の家庭での教育はその人の一生の試金石となっていくでしょう。

最後に私の想いを共有させていただいて、提言の代わりとします。健康や美容など個人的な何かを求めて食に関心を持ったとしても、それが手に入ったら終わりではなく、継続して人生そのものにしていってほしいのです。知識やこだわりの意識も消え、呼吸が意識せずともいつも在るのと同じように、当たり前のものになるまで実践を重ねてください。そして次世代をそのように育てていただきたいです。私たちの毎日の行為が次のヒトたちのいのちに染み込んでいき、次世代に確実に受け継がれ、姿や心となって表現されていきます。心・体・精神が共に引き継がれていきます。マクロビオティックの凄さはここにあると思います。日々の暮らしと成長と未来への道が一体となっていることです。

マクロビオティックは文化として根付いていくものであってほしいのです。「生きること=食べること=日々の暮らし」は立派な文化だと思います。近年SDGs が定着していますが、マクロビオティックは持続可能な生き方そのものです。社会全体の健康や環境に貢献できる大切な文化だと思います。

マクロビオティックな日々を淡々と暮らしていきましょう。家庭で笑顔が溢れ、さらに友達や近所の人へ・コミュニティへと、喜びと知恵が自然に波のように伝播するのがいいです。そんな人たちが増え、未来を創る土壌になることを願います。

「季刊マクロビオティック ジャーナル」2024年秋号を無料会員登録して閲覧

橋本 ちあき/はしもと ちあき

1972年、マクロビオティックに出会う。桜沢里真氏・田中愛子氏など、桜沢如一の直弟子の諸氏からマクロビオティック料理・哲学の薫陶を受ける。1998年、家族で東京から福島県の山奥の小さな集落に移住。生活を通して学び続けること50年。1981年、夫・宙八と共に「マクロビアン」を設立。半断食セミナーを中心に種々の講座・セミナーを開催。2男3女の母。2男を独りで産み、3女を夫婦ふたりで出産。マクロビオティックを軸にオルタナティブ教育を体現し、5人を育てる。その独自の体験から生まれた知恵を、講演・執筆を通して子育て世代へ伝える。2011年、東日本大震災の原発事故で福島県を離れた後も、京都府で生活再建し、孫達を含めて3世代の家族と共に、自然に生きる人生を楽しんでいる。著書:『自然に産みたい』『自然に産み、自然に育てる』(地湧社)
https://www.macrobian.net/

橋本ちあき

関連記事