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【ジャーナルWEB公開記事】2024年夏号 「プロフェッショナル メニュー」第5回|たなこころ

たなこころ

※本記事の内容は2024年3月11日現在のものです。

第5回|たなこころ

取材・文/篠崎 由貴子

長野県岡谷市にある穀物菜食の店「たなこころ」は、JR岡谷駅から徒歩7分ほどの住宅街にある。オーナー兼シェフの小口満土里(おぐちみどり)さんは、マクロビオティックを実践して30年。パティシエとして10年間大手菓子メーカーに勤めた経験を持ち、彩り豊かで自然と笑顔になる料理が好評で、県外から足を運ばれるお客様も少なくないという。

マクロビオティックとの出会いは一冊の本

おいしくて体にやさしい、人も地球も元気にする手料理を味わってもらいたいという想いから、やまとことばで「手のひら」を意味をする「たなこころ」を店名にしたと話す満土里さん。マクロビオティックと出会うきっかけになったのは、自然食品店でたまたま手にとった一冊の本だったそうだ。

「東城百合子さんの『自然療法(あなたと健康社)』を読み、興味本位から玄米菜食を取り入れた食生活に切り替えてみたのですが、しばらくすると驚くほど体が軽くなり、内面からエネルギーが漲っていることを実感できました。日常的に感じていた頭痛や生理痛も影を潜め、何事にも前向きになり、気持ちが晴れやかになっていったのです。

ふと『肉や魚だけでなく砂糖も止めたらどんな変化があるんだろう?』と考えていた頃、オーサワジャパンの食材や調味料を求めてリマ東北沢店(現在は池尻大橋に移転)に足を運んだときに料理教室を開催していることを知りました。軽い気持ちでマクロビオティック クッキングスクールリマに通い始めたのですが、そのときに食べた玄米と味噌汁のおいしさと言ったら!『宝物を見つけた』と思いました。」

料理をきっかけにマクロビオティックの思想や哲学を深く知りたいと思うようになった満土里さんは、結婚を機に長野に移り住んでからもマクロビオティック料理とフランス料理の技術を融合させた「古民家レストランHaze(はぜ)」の平田優シェフや、磯貝昌寛氏(マクロビオティック和道主宰)、永井邑なか氏(ラ・コシナ・デ・ミナカ主宰)の元で学びを深めたそうだ。

心をこめたランチプレート

「たなこころ 」の一番人気は何と言ってもランチプレート。色とりどりの野菜が盛られたプレートには旬の野菜はもちろん、乾物や豆類なども料理のアクセントとして用いられている。

「長野は新鮮な野菜や果物が豊富なので、四季を通して様々な食材を選びながら調理しています。『身土不二』の考えから米や野菜はできるだけ地元産の無農薬のもの仕入れているのですが、安全な畑で作られた野菜を届けてくれる農家さんの存在は何より心強いですね。近隣の農園まで足を運ぶこともあるのですが、どれをとっても新鮮で土の匂いや大地を感じることができます。

自然の恵みをたっぷり取り入れたランチプレートは、ごはんと汁物の他、揚げ物、和え物、煮物などを中心に10品ほどを提供しています。出回る野菜の種類が少なくなる冬場は同じ野菜を使って様々な調理法でお出しすることが多いのですが、これらがお客様には好評のようで味つけや作り方を知りたいとおっしゃる方もいるんですよ。」

取材時のプレートに盛られた「大根餅」は、摺った大根と小麦粉、片栗粉と混ぜ合わせ、塩を加えて蒸したものを一口大に切り、仕上げにフライパンにかけて醤油を一回し。時間をかけて蒸すことで驚くほど大根が甘くなり、醤油の香ばしい味つけがクセになるという。「切干大根と白菜の和えもの」は水で戻した切干大根をリンゴジュースでサッと煮て塩揉みした白菜を加え、梅酢で味を整えたもの。ほのかな甘みと酸味があるので箸休めにピッタリだ。巧みな技術によって同じ食材を印象のまったく異なる一品に仕上げられるのは、プロの仕事ならではだろう。

たなこころ

ランチプレート(取材時)

 

「『油揚げ・大根・人参・こんにゃくの煮物』は白醤油と塩で素材の味を楽しめる程度の味つけにし、味噌仕立てのソースをかけてお召し上がりいただきます。カボチャを蒸したものに青菜、豆腐、葛粉、味噌、塩を混ぜてオーブンで焼いた『豆腐のフリッタータ』には、トマトのやさしい甘味と酸味が感じられる自家製ケチャップを添えています。

この日の揚げものは3種。醤油とみりんで煮た車麩をパン粉をつけて揚げたもの、ジャガイモ・金時豆・重ね煮した野菜を春巻の皮で包んで揚げたもの、シイタケを擦り下ろしたニンニクとショウガ、醤油のタレに漬け、片栗粉をまぶして竜田揚げ風にしたものをお出ししました。揚げものは煮物とは対照的にごはんが進む味つけにすることが多いですね。春巻は下準備に時間がかかるのですが『他のお店では食べれない逸品』と言っていただけることが多いです。

その他には、オーブンで焼いた長芋に醤油を塗ってエゴマの実と和えたもの、自家製塩麹に漬けた大根といぶりがっこの漬物を添えました。平田シェフ直伝の自家製甘酒ドレッシングはどんな野菜とも相性が良いので、一年を通してサラダに用いています。」

汁ものは数種類のキノコを乾燥させてとった出汁と昆布出汁を合わせたスープ。エノキ・大根・人参・レンズ豆といった様々な食感が楽しめるよう工夫されていた。味つけはほんの少しの塩だけ。ごはんの上にはヒジキの味噌漬けを添えるなどの心遣いも嬉しい。

「『玄米だと少し重たくて…。かといって白米では物足りないし…』というお客様の声を受け、現在は五分搗き米にしています。お客様の中には高齢の人もいらっしゃいますし、夏場は特に玄米が食べにくく感じることがありますよね。以前は黒米を混ぜたものをお出ししていたこともあるのですが、甘酒ドレッシングを作ってみたら真っ黒になってしまったので止めました(笑)。

お味噌汁を提供したいのは山々なのですが、すべてを一人で調理しているので正直手が回らないのが現状です。大量に作って味が落ちたものを提供するわけにはいかないので、ならばと考えてひと工夫したスープをお出しするようにしています。」

笑顔溢れる憩いの場

五味をバランスよく感じることができ、食感の違いにも工夫を凝らしたメニューの数々。男性でも満足できるボリュームながら胃に負担がかからない料理が多いためか、家族連れやカップルの来店も多いという。

「ご近所さんたちで賑わうことも多いですが、近隣の市や県から来店してくださるお客様もいらっしゃいます。常連のお客様と話に花を咲かせたり、体調について相談されることもあるんですよ。

特にお子様連れのお母さんたちにとって『たなこころ』が憩いの場になっているようで、10品ほどのおかずから量とバランスを配慮してお出ししている『お子様ランチプレート』を『安心して食べさせることができる』と言ってくださるお客様が多いです。子どもたちが大きな口を開けてパクパク食べている様子を見ていると、生命力に溢れたエネルギーをもらっているなと感じますし、私まで自然と笑顔になります。」

お昼を過ぎてからはお茶とスイーツを楽しみに来店されるお客様も多いそうだ。

「今は白砂糖と乳製品を使わないカスタードプリンと自家製の甘酒を使ったプリンをメインに提供しています。中には開店と同時に来られてランチプレートを楽しみ、ゆっくり読書をされた後にスイーツを召し上がって帰られるお客様もいらっしゃいます。私の作る料理がきっかけとなり、『自分時間』を楽しめる空間が提供できているのかな?と感じるたび『お店を始めて良かった』と思います。」

たなこころ

ほんのり香る酸味と滋味深い甘味が人気の甘酒プリン

 

手のひらから伝わるエネルギーと、食べる人を想う気持ちこそがお料理をおいしくすると語る満土里さんが心がけていることとはどのようなものだろうか。

「『一物全体』はもちろんのこと、『陰陽調和』に配慮した料理を提供するよう心がけています。一人ひとりのお客様の体調に合ったものをお出しするまではできませんが、無意識に『体が喜ぶ料理を食べたい』と思ってお店に足を運んでくれたら嬉しいです。ほんの少し日常の慌ただしさを忘れて、自分の心と体を癒す時間を楽しんでもらえることが何よりのやり甲斐になりますから…。

有難いことに、お弁当の注文も重なって猫の手も借りたいくらい忙しい日はアルバイトさんに手伝ってもらうこともあります。一度にたくさんの料理は作れないので、時間をかけたもの、当日調理するものなどを上手く組み合わせるなどの工夫は必要不可欠ですね。旬の食材と手仕事のコラボレーションを楽しみに来店いただけるよう、常に全体のメニュー構成をイメージしています。」

たなこころ

ゆったり過ごせる2階の座卓席には絵本やぬいぐるみも

 

家族を想う気持ちが後押しに

オープンから6年目を迎える「たなこころ」だが、お店を始めたのには様々な出来事と心の葛藤があったそうだ。

「10年ほど前に夫の心臓に病気が見つかり、6年前には腎臓にも疾患があることがわかり重篤な状態になりました。マクロビオティックと出会って以降、台所を預かる主婦として家族の健康を想って料理を作ってきたのに何故?と、さすがに落ち込みましたね。一時期はすべてに自信が持てなくなり、何をする気力もなくなってしまって…。『成人前の子どもや仕事ができなくなってしまった夫を支えられるのは私だけ。家族のために私にできることはなんだろう』と悩み考えた末、たどり着いた答えが『お店をオープンする」ことでした。恩師の永井邑なかさんからのアドバイスや、ベジタリアンレストランで調理スタッフとして勤務していた経験が背中を押してくれたのだと思います。しばらくの間は焦りや不安から思うようにいかないこともありましたが、丁寧な仕事をしていればいつかは誰かの心に届くと信じて続けるうち、多くのお客様が来店してくださるようになりました。本当に有難いことだと思っています。

お陰さまで、夫は接客や配膳ができるまで回復しました。皆さんの中にも、自分の限界を超えて物事に挑んでいる人がいらっしゃると思います。少しでも体の不調を感じたら、『心の声』を聴いて欲しいですね。体と心が整っていなければ何もできませんから…」

たなこころ

小口満土里さん(左)と永井邑なかさん(右)

 

新たな目標

家族やお客様の健康を安心・安全でおいしい料理で下支えしたいと話す満土里さんには、新たな目標があるそうだ。

「仕入れや仕込み、メニュー構成、調理までを一人で行なっているので少し慌ただしさを感じています。料理には作り手の『心』が現れるので、これからは味噌や醤油作りを再開したり、地域の人にマクロビオティックを知ってもらう交流の場を作るなど、私自身もリフレッシュできる機会ができたらと思っています。

その他では、料理を提供する間に読んでいただけるマクロビオティックの知恵を盛り込んだ冊子も作りたいですね。お客様自身でできる健康チェックやワンポイントアドバイス、陰陽のお話などをわかりやすくお伝えし、今以上にマクロビオティックに興味を持つ人が増えてくれたら嬉しいです。」

夫婦二人三脚で営む温かさに満ちた「たなこころ」は、お客様の健康を願い続けながら一歩ずつ進化を遂げようとしている。

たなこころ

お弁当は予約制。思わず笑顔になる彩り鮮やかなおかずが人気

 

※本記事の内容は2024年3月11日現在のものです。

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INFOMATION

住所:長野県岡谷市天竜町2-3-2
TEL:0266-23-4795
営業時間:11:30〜16:00( L.O.15:30)
営業日:土・日
駐車場:店舗前に4〜5台あり
その他、第2駐車場(岡谷市天竜町2-2-9)にも7台駐車可能
E-mail:tanakokoro6@gmail.com
※定休日が変更になる場合があります。詳しくはお問い合わせください。

たなここたなこころ
https://adzma.xsrv.jp/tanakokoro/

 

 

小口満土里/おぐち みどり
東京都出身。長野県岡谷市在住。穀物菜食の店「たなこころ」オーナー兼シェフ。マクロビオティック クッキングスクール リマ 中級(現:ベーシックⅡ)コース修了。平田優氏、磯貝昌寛氏、永井邑なか氏らに師事し、マクロビオティックの学びを深める。小さい頃から料理好き、世話好き、音楽と踊ることが大好き。

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