【ジャーナルWEB公開記事】2025年夏号 「プロフェッショナル メニュー」第10回|Cafe & marché mi.kimama

※本記事の内容は2025年6月11日現在のものです。
第10回|Cafe & marché mi.kimama
取材・文/篠崎 由貴子
今回は、結婚を機に岐阜県郡ぐ 上じょう市に移住後、マクロビオティックを学んだ水野美紀さんにお話をお聞きした。郡上八幡城をはじめ、国の重要伝統的建造物群保存地区に指定された町並みや登録文化財を見学に訪れる観光客の多い地域で「Cafe & marché mi.kimama(カフェ&マルシェ み. きまま)」をオープンした美紀さんには、以前から食の大切さを伝えたいという熱い想いがあったという。
意識の変化
食や健康、自然と共存する暮らしに関心のあった美紀さんは、添加物不使用の食材を使って調理をしたり、環境に配慮した生活を心がけていたという。移住後はより充実した日々が送れると期待に胸を膨らませていたのだが、現実は少し違ったようだ。
「今から25年以上も前のことですが、地域の人たちの多くが『新しいものを取り入れることがステータス』と思っているように感じました。町に初めてできたコンビニエンスストアに人々が群がり、惣菜やお弁当、スナック菓子などを大量に買い込む光景は、長く東京で暮らした私にとって色々な意味で衝撃でしたね。それらの食品がどのような工程を経て作られているか、考えたりしないのかな…。自然豊かな土地で暮らしているのになんだかもったいないな…と、『意識のズレ』のようなものを感じたことを覚えています。
マクロビオティックという言葉を知ったのは、それから間もなくのことです。ある書籍で紹介されていた内容に目が留まり、『私の考えてきた想いと通じるものがある』と感じたことから、クシマクロビオティックス・コンシェルジュ検定事務局次長を務める岡 志寿子さん主宰の講座に通い始めました。その他にも、久司道夫先生が行なうセミナーに参加したり、植物性由来の食材を使ったフレンチやスイーツなどを専門的に学んだことがあります」
マクロビオティックの知恵は、美紀さんの体を整えるだけでなく、心に豊かさをもたらせてくれたという。と同時に、これまでにはなかった新たな想いが芽生えたそうだ。
「現代は便利なもので溢れていますよね。知りたい情報をすぐに調べることができたり、欲しいと思ったものが翌日には手元に届いたり。悪いことばかりではありませんが、便利なものにはリスクがあることを忘れがちになっているように思うのです。
食に関しても同様です。長期保存のできる加工品や冷凍食品、人工的に作られた調味料を多用した料理が体に及ぼす影響は言わずもがなですよね。マクロビオティックに触れ、『自分の体だけの問題ではない。自然の恵みを余すことなくいただく食の大切さを1人でも多くの人に伝えたい』という想いに駆られ、お店を始める決意をしました」
伝統食のコラボレーション
「Cafe & marché mi.kimama」がオープンしたのは2014年。当初は自然食品や健康食品、雑貨を取り扱う店としてスタートしたが、1年後には飲食店営業許可を取得。現在はマクロビオティックの身土不二・一物全体・陰陽調和の考えに沿い、旬の食材や伝統調味料を取り入れた料理を提供しているそうだ。
「開店した頃はドリンクやかき氷などで一休みできる休憩処のようなスタイルでしたが、今は食事もお出ししています。自分が良いと思った商品についてを口頭で説明・販売するだけでは説得力がないので、実際に食べて、感じてもらうことが何より大切だと考えました」
一番人気は美紀さんが試行錯誤を重ねた『玄米グルメバーガー』。玄米を成形したバンズは、軽く火を通すことで香ばしさが加わり、玄米の持つ本来の甘さが一層引き立っていた。少量の豆乳マヨネーズと有機トマトケチャップを用いた和と洋を一度に感じられるバーガーの最大の特徴は、隠し味を使った手作りのソースにあるようだ。

玄米グルメバーガー
「地元で作られた『郡上味噌』をベースにしています。まろやかな味わいで、様々な食材と相性が良いんですよ。酒精(発酵を止めるためのアルコール)が使われていないものを厳選し、三州三河みりんと合わせて煮詰め、やや甘辛く仕上げています。
パティはもっちりとした食感の『オーサワの車麩』を郡上味噌の地溜まり(味噌の上澄み)に浸してから山芋と岐阜県産の薄力粉を水で溶いた液をつけ、天然酵母のパン粉でカラリと揚げています。合わせる野菜は地元の農家さんから取り寄せることが多いですね。地域のお客様のリピート率が高い一品なので、素揚げした里芋や新じゃが、レンコン、サヤエンドウの他、手作りのにんじんラペを敷いたりと、四季を感じられる工夫を欠かさないようにしています」
その他にも、米粉を使ったマフィンやガトーショコラといった焼き菓子も好評だとか。卵・乳製品不使用なのはもちろんのこと、アレルギーを持つ人に配慮してナッツなどは加えず、シンプルに仕上げているという。
「年間を通して評判が良いのは、豆乳に甘酒とアガベシロップを加えて作る自家製の『豆乳ソフトクリーム』ですね。バーガーとは別に、冷たいスイーツに合うよう考えた郡上味噌ソースを添えることもあれば、紫芋などを使ったオリジナルソースをお出しすることもあります。中にはおかわりをする人や、ソースの追いがけを頼まれるお客様もいらっしゃるんですよ。味噌や地溜まりを始め、料理に使っている調味料や食品も販売しているので、興味を持ったお客様が購入されることもあります。前々から生産・製造者と消費者が繋がる場を作りたいと思っていたので、こうした循環は私にとって何より嬉しいことです」

豆乳ソフトクリーム
一品一品をじっくり味わいたいという人には「まかないアラカルト」がおすすめ。10種類ほどのおかずと土鍋で炊いた玄米が盛り付けられたワンプレートには、マクロビオティックならではの調理法が存分に用いられていた。
この日は出来立てのおからが手に入ったので、だし汁で下味をつけて油揚げに詰めた揚げものや大豆の風味を感じられるサラダを作りました。大豆と切り干し大根の和えものや、じっくりと火を入れた里芋とキクラゲの煮物は食感も楽しい一品です。時には玄米に小豆を加えたり、梅干しを添えることもありますよ。移住当初から電子レンジや炊飯器といった調理器具を手放し、料理のほとんどを土鍋で作ってきたので、その日の天気や季節によって水加減や火の入れ方を変えるといった調整は得意です!

まかないアラカルトの一例
どの料理にも共通しているのは『食材の特徴を最大限に活かす』ことですね。『重ね煮』などの調理法は陰陽のバランスを整えるだけでなく、ほんの少し調味料を加えるだけで食材の持つ甘みや旨みを引き出すことができるので頻繁に取り入れています。アラカルトは提供できない日もあるので、事前にお問い合わせください」
時間をかけて丁寧に作られた料理の数々には、心を尽くした気づかいとお客様の健康と幸せを願う美紀さんの想いが込められているように感じた。

スパイシーカレーはお好みでチリパウダーを振りかけて辛口に
多角的なアプローチ
SNS を活用した集客にも積極的に取り組んでいると話す美紀さん。近年はお客様同士の情報共有の早さに目を見張るものがあると感じているそうだ。
「提供した料理がその日のうちにインスタグラムなどに載り、写真を見て興味を持った人や繋がりのある人が後日来店されるということも少なくありません。ここ数年で急激に増えたのは、やはりインバウンドのお客様ですね。アジア圏よりも欧米から来られる人たちが多いように感じます。以前はスマホの翻訳アプリなどを駆使していましたが、そのたびに手洗い・消毒をしなくてはならず対応に時間がかかってしまうので、英語のメニュー表は必須になりました。中には来日前に予約をする人、滞在中に何度も来店する人もいますね。宗教上の理由から肉や卵、アルコールを摂らないお客様から安心して『美味しく』食べることができたという嬉しい声をいただいています」

英語メニュー
郡上八幡が最も賑わうのは、何といっても「郡上おどり(7月中旬から9月上旬にかけて30夜以上にわたって踊られる)」の時期。国内外から大勢の観光客が訪れるため仕込みの量が増えて下準備に時間を要するだけでなく、夜まで通し営業になることも少なくないという。一方、冬の閑散期は客足が一気に遠のくことから、お店を知ってもらうプロモーション活動の一環として様々な企画にチャレンジしているそうだ。
「20代の頃から着物好きだったこともあり、移住後に着付け講師の資格を取得した経験を活かすことはできないか?と考え、店の2階で着物教室を始めました。郡上踊りシーズンには、浴衣の着付けやレンタルも行なっています。昔ながらの町並みを浴衣姿で歩いたり、踊りに飛び入り参加するといった体験はなかなかできませんからね。おかげさまで予約でいっぱいになることもあります。
着付けをしている2階の和室では、エコ鍋クッションなどのワークショップを開催することもあります。朝炊いた玄米を土鍋ごとエコ鍋クッションに入れて保温しておくと、夕方までホカホカなんですよ。年末にはしめ縄づくりが恒例です。また、周年記念祭にはネパールで珈琲農園を営む池島英総さんをお招きし、1階のカフェで講座を開いたりもしています」
新たな試み
オープンから11年を経た現在は地域の人々との交流も深まり、美紀さんの取り組みに賛同する仲間も増えつつあるそうだ。長きにわたり城下町として栄えてきた郡上八幡からの発信は、今後も広がりを見せ続けることだろう。
「様々な活動を通してお店の存在が徐々に周知されるようになり、リピートしてくださるお客様が増えたことは何ものにも変え難いやり甲斐に繋がっています。
今後は人生後半に取得した、顔からのサインで不調がわかる望診法診断士、食品の裏側を読み取る加工食品診断士の立場も活かして、自然食品をこだわりではなく、身近に感じ、毎日の食生活に取り入れるキッカケとなる店作りを目指していきたいです。これからも『Cafe & marchémi.kimama』のチャレンジを温かく見守っていただけたら嬉しいです」

中島デコさん(左)と水野美紀さん(右)
※本記事の内容は2025年6月11日現在のものです。
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住所:岐阜県郡上市八幡町橋本町888-1
TEL:090-4865-0217
営業時間:11:00〜18:00(以降は要予約)
定休日:月(祝日の場合は営業、その他臨時休業あり)
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