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【ジャーナルWEB公開記事】2026年春号 「プロフェッショナル メニュー」第12回|養美舎

※本記事の内容は2026年1月16日現在のものです。

第12回|養美舎

取材・文/篠崎 由貴子

今回は、青森県黒石市でマクロビオティック料理を提供する山谷 真弓さんにお話をお聞きした。店名の「養美舎」には「美の解釈は人によって様々。直接的な美しさ、感覚的な美しさ、精神的な美しさを養う場所にしたい」という想いが込められているそうだ。

病気と向き合う

長年、薬剤師として様々な施設で勤務した経験を持つ山谷さんがマクロビオティックに出会ったのは、今から11年ほど前のこと。旦那様が大病を患ったことをきっかけに食を見直し、体を整えることはできないかと考えてマクロビオティック クッキングスクール リマ新宿校へ入校。2年ほど青森から東京へ通う日々を過ごしたそうだ。

「夫の家系は大の肉好きで、義父や叔父、叔母も様々な病を罹患していました。肉食を否定するわけではありませんが、『病気と食には深い関係あるのではないか?』と感じていたことは確かです。当時通っていた地元の料理教室でマクロビオティックという言葉を耳にしたとき、個々の体調に合った食べものや調理法を学び、夫の体を改善したいという想いにかられ、すぐにリマへ通い始めました。

上級(現アドバンスⅠ)コースを修了後、様々な疾患に対応する食事について学び、今後の生活に役立てたいと考えてメディカル・シェフ育成講座を受講しました。薬剤師という仕事柄、西洋医学との関わりが濃いと思われがちですが、大学で生薬を学んでいたので、東洋医学に偏見を持つことも、マクロビオティックの考えを受け入れ難いと感じることもありませんでしたね。

食事を切り替えた当初、夫はかなり難色を示していました。頭ではわかっていても…という感じだったのだろうと思います。食は生きる喜びでもありますから、美味しいと感じてもらいたい一心で盛り付けを工夫したり、塩加減を調整したり、玄米に雑穀を混ぜてみたりと試行錯誤しました。

圧力鍋で炊いた玄米が口に合うこと、食の進む副菜の傾向がわかるようになったのは、1年半ほど経った頃でしょうか。その後、定期検診で毎回のように見つかっていた小さなポリープ(良性)ができなくなり、15キロほど健康的に痩せた体重を維持しています。今ではお店が忙しいときには自分で買い物に行って食材を選び、栄養のバランスを考えた食事を摂るようになりました。上げ膳据え膳が当たり前だったとは思えません(笑)」

当時、リマでは修了証授与式の際に受講生が持ち寄った料理を講師陣が試食し、様々なアドバイスを受けることができたそうだ。山谷さんの作品が優秀賞に選ばれたことが地元の人々の間で話題となり、『料理を教えて欲しい』という声を受ける形で自宅で教室を始めたという。

「メディカル・シェフ育成講座を修了してすぐのことだったと記憶しています。教わる立場から教える立場になり、リマの先生方がどれだけの熱意を持って私たちと向き合ってくれていたかを再認識しましたし、懸命に学ぶ生徒さんからもたくさんの刺激を受けました。本当に有難い経験をさせてもらったと思っています。

私の料理が夫の常食となり健康を取り戻した出来事、生徒さんたちの笑顔や『美味しい』という言葉が私の心境に変化をもたらせました。数年経った頃から『1人でも多くの人にマクロビオティック料理の美味しさを知って欲しい』『丁寧に心を込めて作った食事を提供するお店を開きたい』という想いが募るようになったのです」

移りゆく四季を味わう一膳

2023年11月、山谷さんは義父母が暮らしていた一軒家をリノベーションし、「養美舎」をオープン。窓から浅あせ瀬石いしがわ川を眺める店内には県の名産である烏う 城じょう焼の水指や津軽塗りの花瓶、こけしが飾られ、全国から訪れるお客様をもてなしていた。箪たん笥すやテーブル、装飾品、食器のほとんどはリユースで、新たに買い揃えたものは少ないという。代々受け継がれてきたものを大切にしたいという山谷さんの想いは、提供している料理にも存分に反映されているようだ。

養美舎

三年番茶と共に提供されるランチの一例

「野菜は自然栽培で育てられた地物を中心に仕入れていますが、積雪の多い時期は収穫量が極端に少なくなり、身土不二の考えに沿った食材が手に入りづらくなるので、奇跡のりんごで有名な木村秋則さんが携わるオンラインショップなどから各地で採れた旬の野菜を調達することが多いですね。雪深い青森にいながらこれから訪れる春の息吹を感じられるよう、体に負担のかからない献立を考えて提供しています。

ランチのメインとなる『春巻き』は一晩水に浸けた後、たっぷりのお湯で茹でた押麦と刻んだエノキを合わせ、トロッとするまで炒めてから塩と日本酒で味を整えて皮で巻いて揚げています。雑穀のほのかな甘みと香ばしさ、エノキの旨みを存分に感じてもらえたら嬉しいですね。日本酒はキノコの風味を引き立てる名脇役なので、蒸し煮にしたものを常備し、色々な献立に活用しています。

『こごみの胡桃和え』は副菜の中でもより『春』を感じられる一品だと思います。こごみのほのかな苦味と繊細な甘みを味わって欲しいので、合わせる自家製の胡桃味噌は至ってシンプルなものにしています」

水切りした豆腐に炒めた野菜を合わせてオーブンで焼いた『スペイン風オムレツ』はもちろん卵不使用。数種類の和の調味料が味つけの基本だが、ターメリックを加え、自家製のトマトのピュレを添えることで洋を感じられる一品に仕上げているという。一般的にひじきの煮物は甘辛い味つけにすることが多いが、山谷さんの作る『菊芋とひじきの煮物』は全体のバランスを考慮し、食材の旨みや出汁の風味を感じられる程度の醤油で調味されていた。

「『野菜と車麩の黒酢あんかけ』は、水で戻した車麩に昆布出汁の割合を多めにした合わせ出汁と少量の醤油で味をつけ、軽く絞って素揚げしています。八方出汁と醤油と黒酢、塩で味を整え、ひと煮立ちさせて葛粉を加えた餡をかけるのですが、蒸した野菜が十分甘いので、八方出汁を作るときに使う味醂の量は少なめにすることが多いですね。

『日ひゅうが向夏なつと辛味野菜のサラダ』のドレッシングは日向夏の果汁にオリーブオイルと塩を加え、爽やかな味わいに仕上げています。隠し味にメープルシロップを加えると、コクが出てより美味しくなるんですよ」

葛粉と豆乳とそら豆で作った『そら豆豆腐』の味つけは塩のみで、豆本来の甘みを損なわない程度のたまり醤油が添えられていた。『人参と赤大根のラペ』は、人参と赤大根を蒸し煮して甘みを引き出してから白ワインビネガーとオリーブオイルで味つけをして最後に塩で味を整えているそうだ。

この日の味噌汁の具材は春大根とふのり。日常使いしている椎茸出汁や昆布出汁、味噌などは季節や天候、料理によって使い分けているそうだ。月に2回、副菜は毎週変えることもあるという話から、自然の恵みを心ゆくまで味わって欲しいという山谷さんの想いが伝わる。

食を楽しむ空間づくり

「養美舎」では、予約時にアレルギーの有無を事前にヒヤリングし、調理の過程で食材を使い分けたり献立を再検討するなど、可能な限り対応しているそうだ。小豆が食べられないお客様のために地元で採れた黒千石大豆(在来種)を使って発芽酵素玄米を炊くこともあるという。

「リピートしてくださるお客様も多いので、苦手な食べものや過去に提供した献立などがすぐに把握できるよう心がけています。一度にお受けする人数は席数の2/3程度に留めることが多いですね。空間も含めて料理を味わってもらえたら何より嬉しいです」

心尽くしのランチを堪能した後、旬の果物を使った自家製スイーツを楽しまれるお客様が多いそうだ。今回は昨年春から初夏にかけて提供された2品を紹介いただいた。

養美舎

季節のフルーツケーキ

「『季節のフルーツケーキ』は全粒粉を主にした生地に2〜4月に旬を迎える春ミカンの不知火を練り込んだ後にひとつまみの塩を加え、皮ごと輪切りにしてオーブンで低温調理した不知火を乗せて焼き上げました。柑橘類と相性の良いピスタチオを散らし、甘酸っぱい味わいの中にナッツの香ばしさも楽しめる一品に仕上げています。生地が茶色いのはあるものを加えているからなのですが…こればかりは『お楽しみ』にさせてください(笑)。

養美舎

キウイとミントのゼリー

『キウイとミントのゼリー』は、ミントを一晩水に浸けて寒天で固めたゼリーにキウイを合わせ、絞ったレモン果汁と甜菜糖で作った自家製シロップをかけています。ゼリーとキウイの食感が同じくらいになるように寒天の量を調整するのがポイントですね。

定番の献立やスイーツもありますが、その時々に手に入った食材でしか作れない料理も多いので、『今日はどんな出会いがあるかな?』と、新たな発見を楽しみにご来店いただけたら嬉しいです」

一期一会を大切に

近年はSNS や様々なサイトに書き込まれた情報を元に来店されるお客様が多く、海外から訪れる人も増えているそうだ。

養美舎

店内から望む浅瀬石川

「ご夫婦や友人同士、お一人様など様々です。娘さんが高齢のお母様を連れて来られる様子もよく目にしますね。『ゆっくり流れる時間の中で会話を楽しみながら、体にやさしい料理が味わえる』といった言葉を耳にするたび、心から『お店を始めて良かった』と思います。

オープン当初、段取りよく料理を提供することができずにお客様を待たせしてしまうことがありました。頭を悩ませる毎日でしたね。焦れば焦るほど創造力が乏しくなって、頭の中は不安ばかり…。当時の私は『せねばならない』という気持ちで一杯一杯になっていたのだと思います。何より大切なのは『広い視野を持ち、心に余裕を持つこと』。日々の過ごし方を見直し、時間を有効活用できるようになってからは、料理を作ることがより楽しくなりました」

仕入れ量や仕込み時間、料理提供までの流れを再検討し、現在は2名のスタッフが山谷さんをアシストしているという。閉店後の『賄い』の時間は、大切なコミュニケーションの場になっているようだ。

「当日提供した料理の試食も兼ねた賄いを囲み、その日あった出来事や味の感想を共有することが多いですね。『盛り付けの練習してみる?』と声をかけると、大喜びでキッチンに駆けつけてくれるんですよ(笑)。お店を訪れてくださるお客様一人ひとりに丁寧に仕込んだ料理を堪能して欲しいという私の想いを汲み、率先してサポートをしてくれる仲間たち、快く送り出してくれる夫に心から感謝しています」

養美舎

賄いごはん

1〜3月の冬季休業は心身のエネルギーを養う大切な期間。来年の休業中はイベントや料理教室の開催を計画しているそうだ。3度目の春を迎える「養美舎」の料理は、これからも多くの人々の心を癒し続けることだろう。

※本記事の内容は2026年1月16日現在のものです。

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INFOMATION

住所:青森県黒石市温湯上川原7-1
営業日:火•水•金•土( 1〜3月は休業)
営業時間:11:00〜15:00( ランチは予約優先)
※予約はインスタグラムのDM または電話で、日時・人数・氏名・連絡先・食物アレルギーの有無等をお知らせください。
(当日の予約は電話のみ対応)

養美舎

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