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【ジャーナルWEB公開記事】2024年秋号 「プロフェッショナル メニュー」第6回|穂高養生園

穂高養生園

※本記事の内容は2024年6月17日現在のものです。

第6回|ホリスティックリトリート 穂高養生園

取材・文/篠崎 由貴子

長野県安曇野市にある「ホリスティック リトリート 穂高養生園」では、開園以来マクロビオティックを取り入れた食事を提供し続けている。今回は、調理スタッフの鈴木愛さんと古ふる郡ごおり美香さんに、食事を提供する際に最も大切にしていること、お客様への想いなどを伺った。

【写真】スタッフの皆さん(中央が鈴木愛さん・左から2番目が古郡美香さん)

自然豊かな地で

食事、運動、休息(リラックス)が健康を守る上で何より重要だと考える代表の福田俊作さんは、人間に備わる自然治癒力を高める場にして欲しいと38年前に「養生園」を開園した。観光やレジャーを目的とせず、周辺の森を散策したり、温泉やセラピーなどでゆったりと休養しながらマクロビオティックをベースにした食事で心身を整えることができるため、国内外問わずお客様が集う場になって
いるという。

園で提供される食事は1日2食。自然菜園で採れたものや地元の農家から仕入れた野菜を丸ごと使った料理は体を内側からキレイにし、心も元気になると評判なのだが、料理長やシェフといった肩書きを持つ人が存在しないと聞いて驚いた。

「様々な場所でマクロビオティックを学び、実践してきた10名ほどのスタッフが持ち回りで調理をしています。1名が朝・夜の献立を考え、3名ほどが一緒に調理をするといった流れがルーティンになっていて、担当日以外は畑仕事などの別の作業をするといった感じですね。ほとんどのゲストが連泊されるので、似たような料理や味つけにならないよう、目でも楽しめる料理を心がけています。スタッフの中にはゲストとして宿泊し、園の環境に魅せられて住み込みで働き始めた人もいるんですよ」

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1日のはじまりをサポートする朝食

朝食は一汁三菜が基本。月・水・金はよりシンプルな食事で体を休めて欲しいという想いからスープ朝食を提供しているそうだ。

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取材時に提供された朝食

 

「一汁三菜の朝食では必ず味噌汁と漬物をお出しするようにしています。この日は一汁三菜の食事だったので、昆布でとった出汁に天然醸造の麦味噌と玄米味噌をブレンドした味噌汁にしました。寒い時期には豆味噌を多めに使ったり、食事前に運動を行なうプログラムがあったときには違う味噌にしたりと、ゲストの活動に合わせて調整する場合が多いですね。時間をかけて丁寧にとった出汁と天然醸造の味噌を使った一汁をいただくと、元気が漲ってくると言っていただくこともあります。

メインの『大豆たんぱくの葛餡かけ』は、サツマイモやレンコンなど、根菜類を多めにしました。少し肌寒い日だったので、体の芯から温まってもらえるよう工夫した一品です。玉ねぎを少量の水でゆっくりと煮て自然な甘みを引き出しているので、他に加えるのは出汁と醤油と酢のみです。

蒸したカブには白練ごまと自家製の塩麹を豆乳でのばしたタレをかけ、糸唐辛子を添えています。ほんの少しレモン汁を加えるとトロミがつき、奥深い味わいになるんですよ。

ごはんは玄米に1〜1.5割程度の雑穀を加えました。全体のバランスを考えて、酵素玄米にすることもありますし、中には朝は圧力鍋で炊いた玄米を、夜は土鍋で炊いた玄米をお出しして、ゲストに食べ比べをしてもらえるよう献立を考える人もいます。

『玄米ビーフンのサラダ』はパクチーとシメジ、赤玉ネギ、油揚げを梅干しと白味噌を合わせた自家製ドレッシングで和えています。直火で軽く焼いた油揚げがアクセントになっていて、香ばしさの中に様々な味わいと食感が感じられるとゲストから好評です。

漬物はたくあんと小梅で、味噌汁の出汁をとる際に使った昆布とシイタケを佃煮にしたものも添えました。やわらかいもの、噛みごたえのあるもの、意外性のあるもの、奥深い味わいを感じられるものを一膳の中で楽しんでもらえるような献立を考えていますが、端はざかい境期は採れる野菜の種類が少ないので、調理法を工夫して同じ野菜で数品作ることもあります」

園で働くスタッフには通常まかない食が提供されるのだが、調理を担当した人はお客様と同じ料理を食べ、味の感想を伝え合うそうだ。様々な意見交換の中から新たな献立のアイディアが浮かぶことも多いという。こうした情報共有がお互いの調理技術を磨き合い、一品一品のクオリティを高めているように感じた。

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スープ朝食の一例

心身を内側から休める夕食

自然の中でゆったりと静養した後にいただく夕食は17時30分から。就寝前までに消化を終えてより良い睡眠をとってもらうために早めに設定しているそうだ。この日のメインは「袋煮」。添えられた色とりどりの野菜が目にも鮮やかだ。

「エノキと玉ネギを蒸し煮したものと玄米餅を油抜きした油揚げの中に入れた『袋煮』は園の定番メニューです。ショウガを加えて塩で味を整え、ほんの少し醤油を足して昆布出汁で煮るのですが、人によっては玄米餅をモチキビに変えたり、キャベツやカボチャを使うなど四季によって食材を変えることもよくあります。付け合わせには蒸したニンジンに麻の実を和えたもの、塩茹でしたスナップエンドウ、オーブンで焼いたラディッシュなどを添えて、一皿で様々な食感が楽しめるよう工夫しました。

『切り干し大根と甘夏とセロリの和えもの』は、園で栽培した6種類のハーブを使ったハーブミックスソルトで味つけしています。和洋の食材をコラボレーションさせた少し意外性のある一品なのですが、『発想が面白い』『暑い時期にサッパリ食べれる』と喜ばれています。

『白和え』にはヒジキ、こんにゃく、園で採れた春菊を使い、食感のアクセントとしてクルミを加えました。採れたての春菊はとてもやわらかく、香りも良いので生のまま和えています。やさしい味つけにしたかったので、少しの白味噌と白練りごまだけで仕上げました」

カブとカリフラワーのスープに浮かぶのは、食用としても用いられる矢車草の花。3弁の花びらが白いスープを見事に引き立ていた。

「園ではたくさんのエディブルフラワー(食用花)を育てているので、色味が欲しいときなどは畑に走ります(笑)。よもぎの蒸しパン(左下)に添えているお花も食べられるんですよ。

暑い時期でも食べやすいようにと考えて、この日のごはんは梅干しと一緒に漬けたシソとごまを使った『混ぜごはん』にしました。爽やかな酸味とごまの香ばしさが玄米の甘さを引き立てています」

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取材時に提供された夕食

無意識のニーズを感じ取る

お客様がより体を休められるよう配慮された料理のどれもが丁寧に、手間暇を惜しまず作られていた。これだけの品数を用意するには相当な時間を要するのではないだろうか。

「夕食の場合は3時間ほど前から調理を始めることが多いですね。時間のかかるものは前日から仕込みをすることもありますが、それぞれが自分の役割を熟知しているので焦ることなく、私たち自身も楽しみながら作っています。自分たちの育てている野菜が成長していく過程を見ていると『何を作ろう』とワクワクしますし、インスピレーションが掻き立てられて様々なアイディアが湧いてくることもあります。マクロビオティックの基本食が好きなスタッフもいれば、洋食や中華風にアレンジしたものが得意な人もいるので、バラエティ豊かな一膳を提供できることが最大のメリットですが、時々自分のアイディアを盛り込み過ぎて凝った料理が多くなってしまうこともあります。リピーターのゲストからの声は何より貴重ですね。私たちが良いと思っているものでも『どこか違う』とお伝えいただいたときは、ゲストが何を求めて園に来られているのかを話し合い、原点に立ち戻るようにしています」

お客様のほとんどがマクロビオティックという言葉を見聞きしたことがあるという。中には料理を気に入ってレシピを教えて欲しいと言われる人がいたり、長く実践されている方との談笑から新たな発想が生まれることもあるそうだ。

国内外から来園されるお客様の中にはアレルギー疾患を持つ人、苦手な食材がある人もいると思うのだが、そういった人にはどのような対応しているのだろうか。

「アレルギーがある人には予約の時点で伝えてもらうようにしています。豆乳や豆腐に反応してしまう人、バラ科の果物(リンゴ・イチゴ・モモなど)に反応してしまう人など様々なので、その都度スタッフ同士で献立を見直します。一人ひとりのゲストに対応するのは大変なことでもありますが、料理の幅が広がる機会を与えていただけて有難いと感じています。

苦手な食材がある人には…できるだけチャレンジしてもらっています(笑)。不思議なことに『それまで食べられなかった野菜が園の食事で克服できた』とおっしゃる人が多いんですよ。グリンピースごはんを食べたゲストが『概念が変わった!』と言ってくれたときはとても嬉しかったです。

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自家栽培した草花で一年分のハーブティーづくり

カラダを整えるためのチームワーク

お互いをリスペクトしあい、切磋琢磨しながら作りあげられる料理の数々。より健やかな休息をと願う「心」が多くのお客様を惹きつけているのだろう。皆が同じ想いを持っているからこそ成し得ることなのだと感じた。

「『園に来て良かった』と思ったことを、ご家庭に戻られてからも取り入れて欲しいという想いがあります。マクロビオティックもそのひとつです。凝った料理でなくても良いんです。玄米と味噌汁、身近な食材を使ったほんの少しの副菜をいただくことで心にも体にも変化が現れ、より自分らしく過ごせることを知って欲しいですね。調理の負担も減りますし、様々な調味料を用意しなくていいので経済的。一石三鳥です(笑)。

園で過ごされたゲストの顔色が明るくなったり、穏やかな表情に変わっていく様子を見ていると、私たちまで嬉しくなりますし、何よりやり甲斐を感じます。自然の中で野菜を育て、鳥たちのさえずりを聴きながら過ごせる環境、自然の恵みに感謝しながら、これからも私たちにできることに精一杯取り組んでいこうと思っています」

これまでの話を聞いて、一人ひとりが料理長の役割を果たせる「プロフェッショナル」なのだと感じた。様々な野菜や草花を目で見て、触って、匂いを感じながら育まれた五感は、スタッフの感性をより豊かなものにし続けていくことだろう。

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※本記事の内容は2024年6月17日現在のものです。

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INFOMATION

住所:長野県安曇野市穂高有明7258-20
TEL:0263-83-5260(9:00〜12:00/13:30〜16:30)
各種ワークショップ・セラピー随時開催(要予約)
※2泊〜受付(11月下旬〜4月上旬は冬季休園)その他、年に数日休園日があります。詳しくはHPにてご確認ください。

ホリスティックリトリート 穂高養生園
https://yojoen.com/

おうち養生園HP(ショップサイト)
https://www.ouchi-yojoen.com/

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