【WEB限定記事】第3回桜沢如一研究発表大会レポート
10月18日は桜沢如一の生誕の日です。2023年10月18日は1893年から数えて生誕130周年をむかえました。
当協会ではこれまでも毎年10月に生誕祭を企画してきましたが、今年で第3回を迎える桜沢如一研究発表大会を10月15日(日)に日本CI協会セミナールームで開催しました。今回は、手を取り合ってマクロビオティックを盛り上げよう、と関西を中心にマクロビオティックの普及を行う同じく桜沢如一の残した団体「正食協会」との共催が実現しました。
会場、オンライン、アーカイブ視聴を含め予想を超えた180名の参加申込みがあり、とても専門的な内容にも関わらずこれだけ多くの関心が集まったことに、関係者の中から驚きと喜びの声が上がりました。
今回はおなじみの桜沢研究者だけでなく、世界最高学府であるオックスフォード・ケンブリッジ大学を卒業した若き学術研究者、そして日本の統合医療を牽引する大医学者の登壇により、文系的、理系的アプローチ、主観的、客観的アプローチ、世代別のアプローチなどのさまざまな視点、論点が入り乱れ、相関交感することで、とてもエキサイティングな大会となりました。
個性豊かな4名の研究発表
桜沢如一の「心食身一元論」
トップバッターは、総合司会も担当した桜沢如一資料室室長 高桑智雄氏が、心の時代のマクロビオティックのあり方として、桜沢如一の真髄的思想である「心食身一元論」の考察を行いました。
高桑氏は、現代のマクロビオティックは、その食べ物という物質的側面だけが切り取られて、マクロビオティック本来の思想である精神と食と肉体の連続的関係性を極めるメソッドとして、世間だけでなく実践者にもあまり伝わっていないのではないかと問題提起をしました。そして、現代における「心」「精神」「魂」「霊」などの定義が曖昧なのに対し、桜沢は1938年代から、それらの定義を全体論として明確にして、精神と肉体の一体的関係性を論じ、唯心論と唯物論を「食」によって統合した「心食身一元論」を展開したことを、さまざまな文献を基に解説し、この議論の理解と活性化を訴えました。
Beyond George Ohsawa~桜沢が越えられなかった東西の壁~
二人目の発表者の重本祐樹氏は、世界の最高学府であるオックスフォード大学日本研究科修士課程、ケンブリッジ大学工学博士課程修了し、ケンブリッジ大学と日本国内の大学で教鞭を執ったこともあるデザイン工学の若き研究者です。重本氏は、世界のアカデミズムの頂点を経験することで西洋科学の限界を感じ、西洋科学の見落としてきた「感性」の領域を研究するため大学を辞めて東洋哲学やオルタナティブな身体メソッドなどを探求する中でマクロビオティックに出会い、クッキングスクール リマのマスターコースを修了した異色の研究者です。
重本氏は、現代のマクロビオティックでは桜沢如一の思想が金科玉条となり、桜沢の建設的批判をして桜沢を超えて行こうという気概が感じられないと問題提起し、そこには桜沢如一が西洋科学の基本である再現性を確立できなかったこと、陰陽という東洋的手法にこだわり押し付ける態度が、西洋社会や西洋化された現代の一般的な日本人への理解の足枷となっていることに起因する、と論じました。
7 号食~65 人解析した結果
三人目の発表者は、電子雑誌「季刊マクロビオティック ジャーナル」の連載でもおなじみの、国立がんセンター研究所疫学部長、国立健康・栄養研究所理事長を歴任した日本の統合医療の先導者である渡邊昌氏です。渡邊氏は、正食協会が2019年7月~12月(被験者個々に7日間)に正食クッキングスクール講師および受講生とその家族65名を対象に実施した「7号食」の実践調査のデータを総括する発表を行いました。
最初に調査の目的を正食協会代表 岡田恒周氏が紹介し、肉体面だけでなく精神面への影響も調査したことが語られ、それを受けて渡邊氏が詳細な血液検査データを元に、医学的な解説をし、結果的に、体重変化をみると 2~3 kg 減少を多くの人が経験したこと、終了時の気分は、身が軽くなった感じ、感覚が鋭くなった、効率が良くなった、など、よくなったものが43人(78%)、脱力感などが残ったもの9人(16%)、むくみ、脱力感など効果が感じられなかったもの3人(5%)であったことなどを明らかにしました。
そして渡邊氏は最後に、「食養道の中興を 人を納得させるエビデンスを 個人に合った食生活を 科学するこころを」と訴えました。
Can you entertain? の重要性
4人目の発表者は、大会ではおなじみの桜沢研究者、安藤耀願氏が、桜沢の後半の活動の中で最重要のコンセプトになった「Can you entertain?」の重要性を膨大な資料を参照して解説しました。
桜沢はアメリカの雑誌「TIME」1947年5月号に掲載された小さな記事を引用し、その「教養ある人のテスト」を三行に約めて発表したそうです。
①Can you entertain new idea?
②Can you entertain another person?
③Can you entertain yourself?
そして、桜沢は「これは実にスバラシイ、殆どPU人のテストになる、これを訳し、批判し、PU化せよ」と訴えたそうです。
安藤氏は、桜沢晩年の自由人思想において、この「Can you entertain?」が常に根底にあったことを、そして、現代の私たちもこの意味をよく考える必要があるのではないかと訴えました。
資料室活動報告とゲストの挨拶
桜沢如一刊行物電子化プロジェクトの報告
桜沢如一資料室の司書ボランティアである村井友子氏と桑山一美氏より、桜沢如一資料室の活動報告と2022年10月16日~2023年3月31日に実施された「マクロビオティックを後世つなぐ桜沢如一刊行物電子化プロジェクト」では延べ295名皆さまからお寄せいただいた支援金が2,537,200円集まり、桜沢如一資料室収蔵の刊行物のうち、544タイトルの電子化を実施することができ、電子化した刊行物は日本CI協会のホームページで随時公開中であることの報告がありました。最後に、ぜひ資料室のボランティア活動を一緒にやりましょう!と参加を募りました。
ゲストのご挨拶
この日、昨年11月に94才で逝去された純正食品マルシマの創業者 杢谷清さんのご子息、現株式会社純正食品マルシマ代表取締役 杢谷正樹氏が広島からお越しくださいました。桜沢如一先生から指導を受けて純正醤油の醸造・販売に生涯努め、桜沢先生を師と仰ぎ、故郷の小豆島に「桜沢記念館」を設立し、資料の保存、桜沢如一・里真顕彰会などの活動でマクロビオティック界に多大な貢献をされた杢谷清さんのお話、そして前日の10月14日(土)にマクロビオティック納骨堂(武蔵野霊園)での納骨式のご報告をしていただきました。
最後は、今回共催の正食協会代表 岡田恒周氏から大会のまとめとして、これからの時代は東西協力しあいながら、マクロビオティックの世界的な盛り上がりをつくって行きたい、と宣言しました。
3時間半の濃密な内容だった第3回桜沢如一研究発表大会も、盛況の内に終えることができました。高桑氏や安藤氏のような桜沢思想を深める視点、そして、重本氏や渡邊氏のような科学的アプローチをもとにした客観的視点、この両方の視点がむすばれることで、マクロビオティックの世界が格段に広がる予感のする大会となりました。
ご参加いただいた皆様、本当にありがとうございました。ぜひ感想をいただけましたら幸いです。
大会のアーカイブ視聴は、当ホームページの無料会員登録をするといつでも閲覧できます(第1回、第2回も閲覧可)。